ルモアン直美さん プロファイル
地域活動団体 「enchanté~つながりのはじめまして~」 代表
LeMoing TOKYO CO.,Ltd. /(株)ルモアン東京 代表取締役
女子栄養大学特別講師/生涯学習講師
2011年、IT企業に勤めながら、女子栄養大学に編入学。大学の奨学金認定プラン「ゆるやかなつながりの場づくり」を通じて、食や健康・国際交流をテーマとした団体「enchanté~つながりのはじめまして~」を立ち上げ、地域活動を始める。同時期に、後に夫となる、フランス在住のナチュラルワイン醸造家 Cyril Le Moing(シリル・ル・モアン)と出会い、ワインと地産野菜を使った食のイベントも開始。

2018年8月、主に夫のつくるワインを輸入販売する会社「株式会社ルモアン東京」を三鷹で設立。同年10月、女子栄養大学の非常勤講師に就任し2年の任期を終え、現在は同大学にて特別講師の傍ら、地域活動へのフードワールド研修(単位付与のある課外授業)の学生受け入れを行っている。

2020年4月、三鷹市長が所長である三鷹まちづくり総合研究所にて、研究員としてゆるやかなつながりを活かした「三鷹での持続可能な食や農業の可能性」をテーマに研究に従事している。


おいしく、体に良く、地球に優しい
ナチュラルワインを日本に届けたい

MM 山中: ルモアン東京とenchanté~つながりのはじめまして~の事業・活動内容を教えてください。

ルモアン : まず、ルモアン東京ですが、主にナチュラルワイン醸造家の夫シリル・ル・モアンがつくったワインをフランスから輸入して日本で販売する会社です。

夫は2003年から、自然と対話しながら化学の力に頼らない農法を行い、ぶどうを手作業で収穫し、無肥料、無農薬、濾過や加熱処理をしないワインづくりをしています。

そんな中から添加物による味や香りへの変化、体に与える影響にも気がつき、2008年から思い切って亜硫酸塩の添加を一切やめました。
すると、野生酵母の力と100%ぶどうそのものが持つポテンシャルが引き出されて、躍動感あふれる味わいを醸しだすことができたんです。

一般的なワインづくりと違って、添加物ゼロでありのままを大切にしたナチュラルワインは、変化に敏感で常にリスクと隣り合わせです。

ですが、夫は、そんな自然の持つ予測不能な変化を受け止め、小さな目に見えない「微生物の声」に耳を傾け、五感を研ぎ澄ませながら自然なワインづくりを続けています。

生産量も安定しない上に、ボトルに詰めた後もビンの中で酵母は生きているので、温度管理も重要となり、扱いは一般的なワインに比べてデリケートで難しいです。

でも、そんな夫の自然に対する感謝やモノづくりへの情熱を知っていくうちに、生命力のあるシンプルなワインをみなさんに楽しんでほしい、お酒の弱い私でも頭の痛くならない体に優しいワインをみなさんに広く知ってほしいという思いを強く持つようになりました。

最初は、地域での「食でつながる」活動でナチュラルワインの紹介を始めました。
そのうちに「オーガニックワインと違うんだ」とか、「今まで飲んだことなかったけど果実味があっておいしい」など気に入っていただけ、お声がけいただく機会もだんだん増えていきました。
そんな中、輸入業者さんのご厚意や地域の活動仲間や友人など、たくさんのみなさんからの協力により、2018年に三鷹市で創業することができました。

ラジオ体操から始まったenchanté~つながりのはじめまして~

ルモアン: 次に、enchanté~つながりのはじめまして~についてですが、2012年より、「みたか南口駅前でのラジオ体操」から始まり、「醸し家ダイニング」、「たびもあ」の三つの活動を三鷹の地域を中心として行っています。

MM 山中: ラジオ体操って、斬新な発想ですよね(笑)。なぜ、ラジオ体操だったんですか?

ルモアン: 大学で奨学金認定された将来のプランに入れていた中で、一番始めやすいものだったからです。

ずっと前から環境や食、健康に興味があったので、働きながら女子栄養大学に通いました。
学びの中から、私が気になって考えてきたことを少しずつでも話せる知識を得て、それを知ってもらい、みなさんと一緒に考えていけたらという思いがありました。

人になにかを伝えるには、人とのつながりやその中での信頼関係が必要です。
ですが、家と会社の往復の生活で残業も多く、自分が住む三鷹に知り合いが誰もいませんでした。
どうすればいいか悩んでいたのですが、ふと、“誰でもできるラジオ体操なら、気軽に参加してもらえるし、体を動かすこともできる。

一緒にできることがあれば近所に知り合いも増えて楽しいし、定期的に顔を合わせていくことでそんな関係になっていけるんじゃないかな“、と考えました。

最初周りに話した時は、「なんで駅前でラジオ体操なの?」とびっくりされましたが、当時、活動を始めるために参加したイベントの主催の方が手伝ってくれることになり、3人から始めました。

人が来てくれるか心配でしたが、SNSを使って呼びかけたり、チラシでお知らせしたりしているうちに、小学生からシニアの方、そして、障害をもった方にも参加してもらえるようになりました。
今では、毎回10~15人の方が来てくださっていて、おかげさまで今年2月に、のべ参加人数5,000人の記念イベントを開催しました。

MM 山中: それはすごいですね。まさにラジオ体操の力。
ラジオ体操と言えば、私も小学生の頃夏休みに参加した思い出がありますが、朝早く、起きるのが大変だった。
でも、一旦、参加して地域の大人も子供も一緒に体を動かすと、すがすがしい気持ちになり、気持ちよく一日をはじめられました

ルモアン: そうなんです。
みんなで体を動かすって気持ちいいですよね。ラジオ体操だとだれでも気軽に参加できる。
そして、みんなで体を動かしながら少しずつつながりが広がっていく。

今では、ラジオ体操の後に、ウォーキングをしながらごみ拾いをして、そのあと、近くのお店で朝カフェをしています。

実は、朝カフェが一番の楽しみで、「Good&New」という最近あったよかったことや新鮮に感じたことをひとり一人から話してもらう時間があるんです。

近所の耳よりな情報から、家庭内のほっこり話までいろんな話で盛り上がっています。
そんなみなさんと過ごすひとときが私にとって、とっても楽しく大切な時間です。ラジオ体操はサボっても朝カフェだけは行きたいなって思うくらい。(笑)

MM 山中: ラジオ体操以外にも、さまざまな活動をされていますね。

ルモアン: 他には、食でつながる「醸し家ダイニング」、世界とつながる「たびもあ」をやっています。醸し家ダイニングは、夫がシェフとなり、フランス家庭料理とナチュラルワインを供する会です。

夫のつくるフランスの家庭料理とそれに合ったワインで楽しい食の時間を共有しています。
ナチュラルワインを知ってもらえたり、参加してくれた方同士が自然とつながっていくのが嬉しく、そんな場を夫と一緒に楽しんでいます。

みなさんからのお話を聞きたいのと、自分たちも食べながら一緒にテーブルを囲むので、人数は12名程度の少人数制にしています。

ですが、クリスマス会などコンセプトによってはシェフを増やすこともあります。
そんな時はもう少し多くの方に参加していただいてワイワイ楽しんでいます。

夫が日本にいるのが、年に3カ月程度なので開催頻度は限られていますが、様々なご縁をいただき、これまでに三鷹・武蔵野エリアに限らず、お店とコラボして料理をお任せする形で、鎌倉で開催したこともあります。

もう一つの「たびもあ(=旅をもっと)」は、私が海外旅行した時、地元の人に住んでる人しか知らないようなお店や場所を紹介してもらえて嬉しかったことがきっかけです。

日本を訪れた外国の方に地元の良さを紹介する活動としてはじめました。三鷹、武蔵野には様々な見どころがあります。

まち歩きで、三鷹駅から風の散歩道でジブリ美術館まで行き吉祥寺に出るコースをやってみたことがあるのですが、外国の方にけっこう人気がありました。

他にも、書道や合気道など日本の文化を一緒に体験するツアーや学園祭に一緒に行ったりなど、今までいろいろしてきました。

また、国際交流×食というテーマで、母校の女子栄養大学の学生をインターン生として受け入れ、企画からイベント運営までを学生さんに取り組んでもらったりもしています。

そうしているうちに、外国の方との交流に限らず、みんなで異文化(=自分の知らない日常)を楽しむ地方を訪ねる旅、女性のための防犯・防災の勉強会、また、真実を知るドキュメンタリー映画の上映会などもたびもあで企画するようになりました。

2019年に行った、映画の自主上映会「ある精肉店のはなし」では、母校のインターン生のほか、近隣の大学の学生さん、地域の方や活動仲間など幅広く関わってくれて、監督さんを招いて話を聞き、映画にちなんだ「肉」を使った女子栄養大の学生などで作った料理を食べながら交流するという、色々なつながりが広がるイベントになりました。

たびもあは、今ではみなさんの「これやってみたい!」を仲間を募ってお手伝いしながら形にしていく活動となっています。

30代、踏み出した一歩が想像を超える未来

MM 山中: 会社勤めをしながら、会社を立上げ、さらにパラレルで地域活動と、なぜそこまで精力的に動かれているのですか?

ルモアン: なんでしょうかね。自分であまり意識して考えたことはないのですが、振り返るとすべての活動が私の中ではつながっているような気がしています。
そして、ひとつ一つのご縁で、活動が広がっていったという感じです。

今では少なくなりましたが、会社で夜遅くまで残業して疲弊する方をたくさん見てきました。
時間がないからといって、食事も簡単にすます。
内容も、コンビニやファーストフードなど、効率性と大量生産を重視した様々な添加物が含まれるもの。
野菜も濃度の高い農薬が使われたもので環境に負荷をかけて生産されているものだと思います。
そんな生活や食事は結果的に、人にも環境にも社会にも持続可能ではないんですよね。
そんな経験があったことにより、私の活動は、食・健康・環境が大きなテーマになっています。

また、それらのテーマには、「ゆるやかなつながり」というベースがあります。
私自身がつながることを通して、自分の居場所を求めてきたのかもしれませんし、分断する社会で、孤立化する人々に少しでもリアルにつながれる居場所を作れたらと考えてきました。

30代前半まで、アメリカンバイクに熱中し、またLGBTコミュニティに関わったりしてきました。
前者は、その様式美とカスタマイズすることの面白さ、後者は社会に存在する多様性に気づくきっかけとなりました。

今取り組んでいることとは全く違うことして生きていて、ずっと、環境問題に関心を持ちながらも、深く考えたり、行動をしてきませんでした。
でも、思い切って大学に入り、学んでいく中でそれまでの経験を通してさらに視野が広がり、自分の人生のテーマや軸が少しずつ見えてきました。

せっかく大学で学んでいるのだから、なにかアウトプットしなきゃ!と思い、思い切って大学の奨学金認定プランに企画を出しました。すると、幸いにも企画が認定されたのですが、そのなんとか踏み出した一歩が、次の一歩、地域でのラジオ体操の活動につながっていったんです。

いろんな方に助けてもらえて、人とつながることができ、そんなご縁をいただいたおかげで自分の居場所もたくさんできた気がします。

今、興味や関心、価値観の近いみなさんと過ごす時間はとても楽しく、なにかをやる時は大変なこともありますが、ワクワクもしています。それがいろいろ動くことの原動力になっているのかもしれませんね。

まちづくり研究員として、三鷹の「持続可能な食と農業」に挑戦

MM 山中: 今後の展望を教えて頂きますか?

ルモアン : 実は今年、三鷹まちづくり総合研究所で研究員をグループですることになりました。
大学の先生や三鷹市の部課長さんをはじめ、さまざまなフィールドの方と一緒に約一年をかけて、このテーマで調査を行い、論文や研究結果を発表する予定なんです。

いま、地球規模で生物の多様性や環境が失われつつあります。それを少しでも守っていきたいと続けてきた活動から、これからは都市も消費するだけではなく生み出すことをして、地方とも連携しながら持続可能な暮らしを作っていくことが大切だと感じるようになりました。

また、活動のつながりの中から、専門家やその分野に長く取り組まれてきた方、そして興味関心を持ってくれた方などに相談できるようになり、みなさんの力を借りながら、まちがどんな風になったらいいかの「未来図」を作ることができました。その内容で申請したら認めてもらえたんです。

テーマは、「子どもたちにつなぐ100年の森プロジェクト~自然と共に生きる森を作る農業~」です。

なぜそうしたかというと、都市農業が盛んな三鷹市は、農地や農家さんは減っているものの、農業を続けていきたいと考える元気な二代目が他の地域と比べて多いんです。

また、残留農薬や遺伝子組み換えなど、問題の多い輸入農作物に頼らざるを得ない今の日本の食ですが、三鷹に昔からある小麦や野菜づくりなどの農業を守り、地産地消が進めば、みなさんの健康を守ったり、食の安心安全も確保されるようになるのでは?と思ったからです。

もし、それが学校給食などに採用されることになれば、農業経営も安定しますし、地域の「食」を守ることによって、例えば有機農法の推進など、さらなる試みにも発展する可能性があると思うんです。
そういった中で様々なつながりが生みだされていき、それが、食、暮らし、経済が循環できる仕組みとなり、豊かさを分かちあえる持続可能なまちづくりの設計図になるのではないかと考えています。

まちづくり研究員として、これから様々なモデルケースや三鷹の現状と課題について調査をしていきたいと思います。また、一緒に進めてもらえそうな人や団体、農家さんなどに、まずは「未来図」を共有しながら知ることをしたいです。

もし、そんな中から、三鷹の特徴を活かして一緒に取り組めそうなアイデアが見つかれば、試していきながら「未来図」の全体像に反映していき、楽しく輪を広げていく。

それが施策となって三鷹モデルとして取り上げられていくような研究をワクワクできたらいいなと思っています。

お勧めスポットはつながりを愉しめる場

MM 山中: お勧めスポットを教えてください。

ルモアン: 神社仏閣に行ったり美味しいものを食べることが好きですので、近所では、武蔵境の杵築大社ですかね。大きな木があって、神社と自然が調和していて雰囲気が良くて、とっても気持ちがいい場所です。

でもそれ以上に、私にとってのお勧めスポットは、つながりを愉しめる場所です。

地元にも地産や無農薬の野菜を使った美味しくて元気になるレストランさんがいくつかあります。
嬉しいご縁でそういったお店のいくつかがルモアン東京のお客さまだったりもします。

料理やワインだけでなく、オーナーさんやシェフ、そこでご一緒できた方とのコミュニケーションの場は、私にとって元気や喜び(ご利益)をいただける特別なパワースポットです

また、朝カフェでのお話の場もそうです。 自分を表現して“いいね!”をもらえ、様々な年代の方から色々な話が聞ける場なので本当にお勧めです。

ちなみに素敵なお店は、ルモアン東京FBにお店一覧を記載しています。
みなさんにもぜひ、自分なりの居心地の良いスポットを見つけてもらえたらと思います。


編集後記

ルモアンさんのラジオ体操から始まった一歩は、環境×食×健康を柱に様々な活動に繋がっています。人との繋がりを大切に育て、また、愉みながら様々なことにチャレンジしていく姿勢がとても新鮮でした。今、取組まれている、プロジェクト「子どもたちにつなぐ100年の森プロジェクト~自然と共に生きる森を作る農業~」の行方も楽しみです。

About the Author

山中敦志

Co-Founder

武蔵野市吉祥寺北町在住、一児の父。学生時代にアメリカに留学、市民主体の自治に関心を持つ。 企業で環境・社会関連の業務に従事する傍ら、地域から自然エネルギーの普及を目指す、 NPOむさしの市民エネルギー(むーそーらー)やNPOみたか市民協同発電で地域活動を行う。 市民、市民団体、行政、企業の接点を創出し、社会的課題の解決すべく、MMの立上げに参画する。 武蔵野市のおすすめスポットは市役所隣の市民公園です。週末には市民公園の奥にあるフットサルコートで息子と近所の子供たちとサッカーをしています。

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