今年の6月にREADYFOR(ソーシャルグッド系のクラウドファンディング)で440万を超える支援を集めた、お母さんと赤ちゃんのために継続して通える産後ケア施設「はるかぜ」の代表であり、産婦人科医でもある赤枝さんに「はるかぜ」設立の経緯やその思いをお伺いしました。

赤枝俊さん プロフィール
一般社団法人はるかぜ代表理事
産婦人科専門医、医学博士、婦人科内視鏡技術認定医、東京大学届出研究員

杉並区在住。小学校4年生と3年生の2児の父。
徳島県出身、中学まで徳島市で過ごし、高校は愛媛県で寮生活。
東北大学医学部卒業。聖路加国際病院で初期研修・産婦人科専門研修、東京大学産婦人科学教室で大学院進学。市中病院・大学病院での勤務を経て、2023年1月に産後ケアを中心とした子育て支援を行うために「はるかぜ」を設立。

はるかぜ産後ケア(公式サイト)
はるかぜ(Instagram)

産後のお母さんの大変な現状を変えていく

今日はお時間いただきありがとうございます。
早速ですが、新しく「はるかぜ」という産後ケア施設を立ち上げたきっかけなどについて教えてください。

僕は産婦人科医で、お産や不妊治療などを仕事としています。
産婦人科医は、妊娠前と妊娠中は診るのだけれど、出産後のことはあまり見る機会がないんです。
それでも、産後の一ヶ月検診があるのですが、その際にすごく疲れているお母さんが多いことが気になっていました。

具体的なきっかけは、産休を明けて復帰した同僚が、職場で涙をこぼしているところを見たことです。
どうしたのか聞いたところ、「毎日寝る時間がないくらい大変で、休む時間がない。大切な手術があるのに全然準備もできていない。」と教えてくれたんです。

振り返ってみると、僕の妻も産後とても疲れていたのを思い出しました。
妻の産後の時には、僕もまだ研修医で、当直などで家に帰ることが出来ないことも多かったです。
当時の妻や子どもに寄り添えたかというと出来ていなかった。今でも罪悪感があります。

世のお母さんたちがこんなに疲弊しているのに、産後のお母さんに対するサポートが充実していないことにようやく気付いた感じですね。
自分で産後のお母さんやご家族へサポートできることは無いだろうか?と思ったのが「はるかぜ」を立ち上げようと思ったきっかけです。

なるほど、うちも二人子どもがいますが、産後はお母さんに負担が偏ってしまうのを感じます。産後ケアの現状はどうなのでしょうか?

産後ケアは少しずつですが広がってきています。2021年から産後ケア事業は自治体の努力義務となり、生後1年以内の母子を対象とする産後ケア事業の実施が義務化されました。国も厚生労働省やこども家庭庁が中心に産後ケア事業をすすめています。
そうした自治体の事業だけではなく、民間の産後ケアホテルなども増えてきています。

自分が興味を持ち始めたタイミングと、世の中の流れがちょうどリンクした感じで「産後ケア」って大事だよねという動きが大きくなってきました。
でも、まだまだそのニーズに対して普及が追い付いていないと感じます。

お母さんのことをしっかりと診る産後ケア

武蔵野市に産後ケア施設を作ろうと思ったのはなぜでしょうか?

産後ケア施設をつくるにあたって色々な自治体に話を聞きに行きました。
その中で武蔵野市にも話を聞いたところ、武蔵野市の産後ケアがコロナ禍で休止していたそうです。今年に入っていくつかの施設が再稼働したのですが、武蔵野市は市民のニーズに対して全然足りていないということでした。

僕は杉並に住んでいるのですが、子どもの習い事などで武蔵野市にもしょっちゅう来ています。親しみのある街でもあるし、市としても産後ケア施設の必要性を感じてくれているのであれば、うまく連携もしていけるのではないかと思い、武蔵野市で産後ケア事業を始めることにしました。

「はるかぜ」の産後ケアはどのようなものになるのでしょう?

「はるかぜ」が目指したい産後ケアは気軽に立ち寄れる子育て広場的なものではあるけれど、子どものためだけでなく、お母さんやお父さんにちゃんと目を向ける場所にしたいんです。

例えばお母さんが疲れているようなら、ちょっと預かるのでリフレッシュしてくださいとか、少し横になってくださいねといったように、子どもだけじゃなく、親も一緒にケアしようというのが一つの目的です。

「はるかぜ」では助産師・保育士を中心に、僕も関わっていき、産後うつの症状がないか?とか、より医療に近い視点で、利用者さんに寄り添えるのではないかと思います。

まずは、赤ちゃんをつれてちょっと休みに来てね。という感じでしょうか?

そうですね。育児に疲れている人が圧倒的に多いですし、ワンオペ育児だとずっと赤ちゃんと一緒で休む時間もとりにくいです。
「はるかぜ」でスタッフが赤ちゃんを見ている間に、少し休んでリフレッシュするだけでも、また頑張ろうと思えます。

「はるかぜ」ではお母さんの様子もしっかり見ているので、体調が悪いようなら自治体の保健師さんとも連携して、継続的なサポートにつなげることも出来ます。

継続的な自治体のケアにつなげてくれるのはいいですね。自治体のサービスは自分から取りに行かないと行けないものが多いです。
疲れてしまっている方が自分から受けに行くのは難しい場合もあります。

2018年に妊産婦の死因の第一位が「自殺」だと話題になりました。
医療の発達もあり、産後の出血や感染症で亡くなる方はすごく減りました。しかし、自殺を止めるのはとても難しいです。
自殺や自殺未遂をしなくても、その一歩手前で精神的に病んでいる人たちはたくさんいるんです。本当に日々しんどくて、何なら死んでしまいたい。そうした人たちをきちんとサポートする仕組みを作っていきたいのです。

お母さんや子育てをする人たちがつながれるコミュニティも作っていきたいです。当事者同士が悩みを共有していくのも心のケアにつながります。

「はるかぜ」は吉祥寺の中道通りにあり、周りに色んなお店もたくさんあります。お買い物などのついでにパッと立ち寄っていただけるような施設にしたいです。

武蔵野市でも子育てコミュニティが各地にあります。
以前、境南地区の「境おやこひろば」のインタビューもさせていただきました。そうした既存の子育ての場とも連携してもらえたら、より子育てのしやすい地域になっていきそうですね。

命のリレー。それをつなぐ産婦人科医へ

お医者さんになったのにはなにか理由があるんでしょうか?

高校が男子校で四国の田舎でした。実家からは離れ、寮生活をしていたんです。
寮は小高い山の上にあって、夜は真っ暗で街の明かりが遠くに見えるようなところです。
そうすると色んなことを考える時間がすごくあったんです。なんで自分は生まれたのか、みたいなセンチメンタルな感じで(笑)。
僕の家は母子家庭で、当時母は体調を崩していました。
そうした中で「どうしてあの親から産まれてきたんだろう?」とか、命のリレーについて良く考えていたんですね。それが生命に興味を持ったきっかけとなりました。
あとは高校生の僕には、進路を考える上で、理学部・工学部とかより医学部の方が具体的でイメージがしやすかったんです。

医学部に進学したものの、はじめは産婦人科医になるつもりはありませんでした。
大学5年生の産婦人科の実習のとき、お産をした瞬間にお母さんが死にかけてしまうのを目の当たりにしたことがありました。全身の血が入れ替わるくらいの出血でなんとか治療して無事でした。
子どもが生まれた時に、お母さんが死んでしまうなんてすごく悲しいと思いました。自分は母子家庭だったので母親に育ててもらったという意識があるんですね。なので、出産でお母さんが亡くなることが無いようにしたいと思い、産婦人科医を目指すことになりました。

利用者と一緒に成長していく施設に

産後ケア施設を作っていく上で、大変な部分などありましたか?

人材の難しさでしょうか。
0歳児というのはすごく変化・成長します。そんな赤ちゃんと、0歳児を育てるお母さん両方の専門家というのはほとんどいないんです。
はるかぜでは、助産師さんで産後ケアの経験があり、母子のサポートができる方や、保育士さん、小児科での勤務経験の長い看護師さんなどでチームを組むことが出来ました。
一人ですべてを診ることは出来ないので、そうしたチームを作ることが大切ですね。

自分自身もまだ産後ケアの専門家とは言えないです。いまも様々なことを学んでいる最中ですし、「はるかぜ」のチームもまだまだ未熟なので、それぞれの専門性を活かしながら利用者さんも含め一緒に成長していきたいです。

産後ケアは一つの施設で、妊娠中から産後のケアまでできるのが理想ではあります。しかし、お産ができる施設で片手間に産後ケアをやるのも難しいのが現状です。

「はるかぜ」では妊婦健診やお産を診ることが出来ないので、妊娠から継続してサポートが出来ないのが弱みではあります。そのため、セミナーや沐浴・育児体験クラスなどを通じて、産前から妊娠中のお母さんやお父さんに関われるように模索しています。

中道通りの「はるかぜ産後ケア」にぜひお立ち寄りください

10月12日に「はるかぜ」はオープンとのとこですが、今後はどのように施設を盛り上げていくのでしょうか?

オープンからしばらくは妊娠中の方や産後の方に来ていただけるイベントなどをしたりして、施設をまず知ってもらうところからはじめていきたいです。
理学療法士もいるので、産後の腰痛や尿漏れなどに対して理学療法をやってみたり、ピラティスのインストラクターもいますので、お母さんやご夫婦で体験してもらうなど考えています。

まずは知ってもらうことが大切ですよね。
その上で更にはるかぜをどんな施設にしていきたいですか?

今回の施設は宿泊は出来ないので、日帰り型産後ケアになります。産後ケアが必要だと思ったきっかけが、最初にお話した同僚が子育ては寝る時間もないくらい大変だという体験だったので、宿泊できる施設を作りたいという想いがあります。
今回の産後ケア施設を充実させていき、ゆくゆくは宿泊できる施設も作っていきたいです。

「はるかぜ産後ケア」はこんなところ

「はるかぜクリニック」「産前産後ケア助産院はるかぜ」がある施設です。
吉祥寺駅から徒歩5分。中道通りから西三条通りに入ってすぐのスポーツクラブムサシノクラブの向いのビルの3階にあります。
助産師、看護師、保育士による産後ケアを行っています。

天然の無垢杉板や漆喰をつかった落ち着いた内装で、接着剤などの化学物質も極力使わず、シックハウス症候群などにも配慮した施設です。

会員サービスの「はるかぜクラブ」に入会すると、気軽に立ち寄って施設を利用できたり、助産師などにご自身の体調や育児の相談も出来ます。また、整体や理学療法、ピラティスなどのプログラムへ会員価格で利用できます。はるかぜクラブの詳しい内容は公式サイトをご確認ください

はるかぜ産後ケア
所在地:東京都武蔵野市吉祥寺本町2丁目12-5スプリングハウスビル3階
電話:0422-29-3860
公式サイト:https://harukaz.com/


編集後記

お話を聞かせてもらった私(上澤)の妻も産後に体調を崩しました。当時は赤枝さんと同じように妻に寄り添うことが出来ず後悔しています。
産後ケアの大切さが広がり、パートナーがともに子育てをすることが当たり前になっていくといいなと思いました。
はるかぜのような志のある施設が武蔵野市にできるのは大変ありがたいです。
武蔵野市内の子育てコミュニティや行政とうまく連携し、子育てのしやすい地域だと周りからも思われるような市になっていってもらいたいです。

About the Author

上澤進介

Co-Founder

武蔵野市関前在住、二児の父。1976年神奈川県川崎市生まれ。栃木県鹿沼市育ち。多摩美術大学を卒業後、建築設計事務所、広告制作会社を経てWeb制作会社を起業。子育てのために武蔵野市へ転居。会社も武蔵野市に移転して職住近接を実現。地域活動に関心をもち2017年2月から武蔵野市「地域をつなぐコーディネーター」の一期生としてコミュニティ活動に関わる方々と学びを深めている。 武蔵野市のおすすめスポットは三鷹の堀合遊歩道から中央公園へ続くグリーンパーク緑地です。子供たちと遊びながら中央公園へ向かうのが楽しいです。

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About the Photographer

山田奈緒子

Co-Founder

武蔵野市関前在住。広島県で生まれ育ち、結婚を機に東京へ。うつ病等を患ったり、近所に話せる人がおらず孤立していた経験から、地域のつながり作りに興味を持ち、地域の「居場所」の情報を載せたマップ作りの活動に参加。様々な活動を通して知った沢山の人たちのストーリーを誰かに届けられたらと思い、MMの立ち上げに参画。「作ろう!みんなのジモト Wa-shoiパートナーシップ」世話焼き人。 武蔵野市のおすすめスポットはクラフトハウスばくです。玄米ランチが食べられてゆるゆる過ごせてイベント盛りだくさんのコミュニティスペース?のような、不思議な空間です。わりといつもここにいます。