2023年は世界で観測史上最も暑い年でした。日本においても昨年は過去2番目に熱中症搬送が多い年となりました。今年も暑い夏真っ只中です。
そして、これからも日本の夏の最高気温は毎年更新されていくでしょう。筆者は2002年生まれであるため、先が思いやられます。自分の未来は今行われる行動によって大きく左右されます。そして、この重要な分岐点で政治家がどのような決断を下し、行動を行うのかが問われています。
私の住んでいる小選挙区、東京18区の衆議院議員候補者は気候変動についてどう思っており、どのような気候変動政策を持っているのでしょうか?今回のインタビューシリーズでは3人の候補者に気候変動についてインタビューしました。
二人目にインタビューを行うのはもと武蔵野市市長であり、立憲民主党の東京都第18総支部長である松下玲子さんです。
松下玲子さん プロフィール
立憲民主党 東京都第18総支部長
1970年生まれ。実践女子大学文学部卒業後、サッポロビール入社。
2004年早稲田大学大学院経済学研究科修了。
松下政経塾での研修を経て、2005年・2009年武蔵野市選挙区で都議会議員選挙に当選。
2017年市民の要請により武蔵野市長選に立候補して当選、2021年に再選。2023年11月末退任。
趣味は美術・演劇・落語鑑賞。家族は夫と子ども。
削除目標 | 2030年に60%以上削減(2013年比)、2050年までにカーボンニュートラル。 |
化石燃料 | 石炭火力の早期の廃止。 |
原子力 | 原発は無くしていきたい。地元の合意のない再稼働は反対。実効性のある避難計画の策定が必要。 |
再エネ | 基本的には風力、水力、太陽光、地熱を中心に普及促進していくべき。 |
GX計画 | 評価していない。二酸化炭素の排出削減を行うために原発を活用しようとする点に違和感。 |
気候変動に対する自治体と個人の役割
日本の気候変動対策の現状をどのように捉えていますか?
この暑さ。今日は6月なのに30℃です。まだこれから梅雨だというのに、これだけ暑いことに驚いていますし、気候変動が深刻化しているなと感じています。
このまま気候変動が進んでしまうと猛暑、豪雨、大型台風などの深刻な気象災害が増加するとの指摘もあります。このまま無策でいてはいけません。
そのため、都道府県や武蔵野市のような基礎自治体、そして個人が行動を起こしていかなければいけません。
2030年に向けたCO2削減目標。立憲民主党のビジョン
日本の2030年のCO2の削減目標について、どうお考えですか?
立憲民主党としては2030年までに二酸化炭素排出量を2023年度比で55%以上削減するという目標を立てています。私は60%以上削減すべきだと考えています。残り26年で行うのは難しい目標ではありますが、2050年には100%削減を目指しています。
LNGと再生可能エネルギーの未来。原発に頼らないエネルギー政策の提案
この削減目標を実現するためにも、日本において、2030年に向けて、各電源についてそれぞれ増やすべきでしょうか、減らすべきでしょうか?どのようなエネルギーミックスをお考えでしょうか?
化石燃料については、CO2排出量の少ないLNG火力を中心に、石炭火力の早期廃止をすべきだと思っています。
原子力発電については、実効性のある避難計画の策定が必要です。
地元の合意のないままの再稼働は認めてはいけません。2050年にはLNG火力の一部をバックアップ電源として確保したいと思っています。
原発は、無くしていきたいです。エネルギー政策は国政の課題なので国による意思決定が必要ですが、岸田政権は原発を利用して排出量を削減するという方針に変えてしまいました。
政府は原発の危険性に目を向けずに再稼働ありき、原発延命を進めています。そのために二酸化炭素排出削減の推進というロジックを作っていますがそれは間違いだと思います。その辺りも検証して、否定するところから始めないといけないと思います。
私は今の政府の方針とは違う道を選びたいです。ドイツのように脱原発を決めて、その上でどうしていくかを考えていきたいです。
再生可能エネルギーについては、基本的には普及促進していくべきだと思っています。
超えるべきハードルはありますが、基本的には風力、水力、太陽光、そして地熱に頼るべきだと思います。
実は日本の地熱ポテンシャルは世界の中で2位であり、地熱発電のポテンシャルはまだまだ高いと思っています。
原発利用への違和感と再生可能エネルギーの安定供給
日本では、温室効果ガスの削減やエネルギーのあり方について、経済産業省主導のもとGX(グリーントランスフォーメーション)が目玉政策として掲げられていますが、この政策について評価している点・課題だと思う点を教えてください。
評価していません。
二酸化炭素の排出削減を行うための活動だということは理解していますが、そのために原発を活用しようとする点に一番違和感を覚えています。経産省の主導でもあるので、残念ながら原発推進をしたいがための政策になっていると思っています。
再生可能エネルギーの普及については、蓄電池や技術面、コストの課題が残っていると思います。電気代の高騰と物価高に逼迫される家庭にとっては、二酸化炭素の排出削減には、なかなか目を向けられないと思います。
そのため、政府がコスト面の課題を配慮しつつクリーンなエネルギー供給を進めていくべきだと思います。
未来のためのライフスタイル改革。地産地消とエネルギー政策
ご自身が考える気候変動対策を実現するために、日本政府及び東京18区の自治体が行うべき対策と、その課題をどのように捉えていますか?
エネルギーの供給側では再エネの普及促進、需要側では省エネの対策が必要で、広く捉えると、他にも交通対策や緑化推進が自治体レベルでも国のレベルでも必要です。
ゴミの問題も避けては通れません。実は東京都23区は東京都がゴミの処理を担当しており、ゴミの分別もゴミ袋の有料化も進んでいません。そのような捨て放題埋め放題の状況は持続可能ではありません。
その逆に多摩地域では、基礎自治体がゴミの対策に積極的に取り組んでいます。武蔵野市では市民との対話を重ね、ゴミ袋の有料化や分別を進めてきました。
他にも、エネルギー総量を減らしていく努力が必要で、そのためには地産地消と都市農業を守る取り組みが必要だと思います。
空輸や陸路で日本各地からモノを取り寄せて楽しむ贅沢な生活だとエネルギーがたくさん使われてしまうため、このようなライフスタイルは見直さなければいけません。
しかし、電気を使わない不便な生活にはなかなか戻れないと思います。今の便利な生活をある程度享受しながら、環境に配慮したモノを買うとか、地産地消を行うとか、エネルギー削減をする努力をしなければいけません。
武蔵野市では給食の3割に地元の野菜を使う目標を立てて、今は2割ちょっと達成できています。朝とれた枝豆やとうもろこしを子どもたちが給食で食べています。
食の供給の7割を他国に頼っている日本は、安全保障のためにも食料自給率を上げる必要があり、そのためには農地を守る必要があります。
武蔵野市で農業ボランティアを行なっているのですが、そのなかで学んだのはいかに今の農業が農家の善意によって成り立っており、何か新しい取り組みを行わなければ都市農業は持続できないということです。
農地は国の所有ではなく個人の資産です。土地代が高い東京では、農地を農地として保持するよりも、売ったりマンションにしたりした方がお金は入ります。
今も続いている農地は農家の善意と土地に対する優遇で成り立っています。そこで、農地を開発してはいけない市街化調整区域として認定して、地元の市が国や都の補助を活用して農地のままで残せる制度を作れないかなと思っています。
善意だけに頼っていると、特に東京の農家はゼロになってしまいます。身近な自治体をモデルケースにし、都市農業を守っていきたいと思っています。
エネルギーの大きな政策は国でしか決めることができないので、国が大きな方針を出さなければいけません。政府が「原発に頼らずに再エネに舵を切ります」というメッセージを出して旗振りをしてくれれば、きっと新しいビジネスや雇用も生まれます。この点においては自治体ができることには限界があります。
未来のために今できること。資源を大切にする社会を目指して
最後にコメントをお願いします。
私は一人ひとりの人権が守られる戦争のない平和な世界、拘束や押しつけのない自由な社会、そして持続可能な社会が重要だと思っています。
資源は有限です。今生きている私たちが有限の資源を使い尽くしてしまってはいけません。巨大な開発事業や新しい道路や新しいダム、新しいリニアモーター新幹線を作ることは日本ではしてはいけないと思っています。
むしろ、今ある物や施設を維持、管理、改修し、今あるモノを安全に使い続けていくことに力を入れるべきです。
万博やリニアモーターカーなどの派手なものにお金をかけるのではなく、地道ではありますけれども、地下埋設物や建物の耐震化などに取り組みましょう。そして未来の人たちに残しましょう。有限の資源を使い尽くしてしまうと絶対しっぺ返しがくると思います。今、地球に怒られている気がしてなりません。人と緑を大切にしていかなければいけません。