武蔵野市には、保育園父母会が交流・連携する「武蔵野市保育園父母会連合会(市保連”しほれん”)」という団体があります。保護者同士の意見交換や情報共有を行うことはもちろん、保育環境の改善を求める保護者たちの声を集め、行政に対して届けてきました。また、「むさしの子どもまつり」へのブース出展や、境おやこひろばさん(武蔵境エリアを中心に活動する子育て応援市民団体)とのイベント共同開催、SNSを通じた子育てに役立つ情報の発信など、武蔵野市で子育てをする方々に少しでも貢献しようと活動をしています。

今回は市保連の現会長である渡邉成子さんに、その活動やご自身のことについてインタビューをしてきました。

渡邉成子(わたなべしげこ)さん プロフィール
武蔵野市在住。11、8、4歳の三児の母。メーカーに勤務しながら、共働きで3人の子育てをする。保育園の父母会活動や小学校でのPTA活動を通して、保護者同士や地域の繋がりに興味を持ち、2019年度に自ら市保連会長に立候補。2021年度で会長3年目に入る。

『武蔵野市保育園父母会連合会』についてはこちら


市保連の活動内容について教えてください。

市保連(しほれん)とは「武蔵野市保育園父母会連合会」の略称で、武蔵野市内の認可保育園のうち、11園の父母会が加盟しています。1971(昭和46)年に発足し、今年50周年を迎える歴史ある団体です。長年にわたり、より良い保育環境を目指して、保護者の立場から行政に働きかけを行ってきました。また、園を跨いだ保護者同士の交流や情報交換の場としても、大きな役割を担ってきました。
 
活動内容は大きく以下の4つです。
  1.各園の父母会同士の交流促進
  2.幅広い保護者、保育関係者との連携
  3.保育の現状に目を向け、保護者の声を行政に届ける
  4.保育園の情報を求める保護者、保育関係者に向けた情報発信
 
まず、保護者同士が集まって話し合う定例会(2020年度より原則オンライン開催)を2ヶ月に1回実施しています。また、保護者たちの声を集めた「要望書」についても、行政(武蔵野市)に向けてほぼ毎年提出しています。さらには、武蔵野市が募集する子育てに関連する政策へのパブリックコメント提出や子育て世代に向けたイベントの開催、武蔵野市子ども家庭部子ども育成課の方々をお招きして保護者と直接の対話を行う「市との座談会」の開催など、精力的に活動しています。

とは言え、市保連の認知度はまだまだ高くないことから、最近では市保連の活動を保護者たちに広く知ってもらうことを目的に、SNSを通じた積極的な情報発信や、オンラインイベントの開催なども行っています。
 
ご興味のある方は是非とも以下リンクから活動を覗いていただければと思います。
市保連ウェブサイト
市保連✖️境おやこひろば コラボイベント「保育園座談会」
市保連✖️武蔵野市子ども家庭部子ども育成課「オンライン座談会」ポスター
「市とのオンライン座談会」議事録

「おもしろそうだな、と思って」

3年前、この手の活動の代表はなかなか決まらないと想像していましたが、渡邉さんが立候補してくださったので驚いたと同時に安心したのを覚えています。どうして会長に立候補しようと考えられたのでしょうか?

実は5年前にも市保連担当になり、活動に参画したことがあります。当時は他の園の皆さんがメインメンバーでしたが、前向きに積極的な活動を行っており、皆さん大変熱心で、楽しそうに活動していたのが印象的でした。市保連Facebookページの立ち上げもこの年ですし、要望書提出を再開したり、市の担当者を招いた公開型の勉強会も開催していました。当時の私は一担当として市保連活動に関わっており、運営については全てメインメンバーの皆さんにお任せしていましたが、彼らは一致団結して見え、正直、おもしろそうだな、機会があれば私もやってみたいな、と思える活動でした。

また、私自身は有り難いことに保活(保育園に入園させるための活動)に苦労しなかったのですが、個人的に「保育園増やし隊」(武蔵野市に認可保育園をもっと増やしたいと願う待機児童の保護者の集まり)のメンバーの方と知り合う機会があったり、活動内容もよく耳にしていました。市民として自ら動くことで子育て環境を良くしていくという考え方に触れ、興味を持つようになっていきました。

子どもが小学校に入学すると、地域に知り合いがいることがいかに大切かということに気づきます。父母会活動などを通じてたくさんの知り合いができ、自分以外に我が子を見守る大人の目が近所にあるということが、平日に家を空けて仕事をしている私にとっては安心できることでした。

私が会長に立候補した2019年から、市保連は地区制という、駅を挟んだ3地区(武蔵境周辺、三鷹周辺、吉祥寺周辺)それぞれで定例会を開催して意見交換をするという制度を導入することになっていました(※1)。この制度の趣旨・目的・考え方は私にとても響きました。我が家は、子どもたちを通わせていた保育園のエリアと、住まいである小学校の学区が少し離れていたため、小学校に上がってからの子どもたちや自分自身の交友関係について少し不安があったのですが、市保連活動を通じて学区内の知り合いが増えることはとても有り難いことでした。

地区制を導入する前までは、武蔵野市全域の保育園の市保連担当者全員が、三鷹駅近くの西久保コミュニティセンターに集まっていたためそれなりに負担だったのですが、地区制の導入により最寄りのコミセンに行けば良いだけなので負担は軽くなり、しかも、将来的には、小学校で再会できたり、ご近所付き合いをできるかもしれない方々とお話しができるのです。メリット尽くしだと感じました。

私自身が市保連活動を前向きに捉えていたこと、さらには、2つのエリアの情報共有が可能な私を市保連としても必要としてくれたことで、同じ園の前任の方が、私を会長に後押ししてくださいました。子育てをしながら仕事をし、さらに父母会活動に参画するというのは、誰でも忙しく感じるのが当然で、その中でも会長という職はハードだと分かっていました。それでも、やりがいとおもしろさが勝ることが想像できたので、一生懸命に取り組みたいという思いを持って、会長に立候補するに至りました。

(※1)1年目の2019年度は地区制を実施。2020年度からはコロナ禍により対面での定例会開催が難しくなったことから、地区制のメリットが十分に享受できないと考え、現在はオンライン会議ツールを活用して全園での定例会を開催中です。地区制は一旦ペンディングということになってしまいましたが、落ち着いたら再開したいと考えています。

「繋がりが広がっていくのを実感している」

会長をされてみて、どんな発見がありましたか?

1年目には隣の園で活躍している木村さん(筆者)と出会えました。また、市保連活動を通じて、同じ小学校に通う他園出身の方々とも出会い、その縁がきっかけで今年度は市保連で知り合った仲間たちと小学校のPTA役員も務めています。

保育園の中だけの交友関係だったのが、市保連で知り合った方とまた別の場所で一緒に活動ができる、繋がりが広がっていく、地域に知り合いが増え、自分以外の大人が一緒に子どもたちを見守ってくれるようになる。こうした経験は自分も楽しく、子どものためにもなると考えています。

また、自分自身の子育て環境に少なからず影響を及ぼす行政の子育て施策の考え方を、それを作る方々と直接お話しをして相互理解できる機会があることは、とても貴重だと思っています。そして、子育て真っ盛りの今だからこそできる経験だとも思います。

「行政とのコミュニケーションが出来る団体でありたい」

どんな団体にしていきたいか、目標としている姿はありますか?

市保連との関わりもある身近な団体として目指すことができるのは、学童協(武蔵野市学童クラブ連絡協議会)です。こちらは市内公立小学校全12校に設置されている学童クラブの父母代表の会で、市内全域の学童クラブを利用する保護者の声が拾え、かつ、人材が途切れることなく、市とのコミュニケーションを継続して行っています。提案内容を、行政としっかりコミュニケーションをしながら実現するプロセスを見ていると、地域活動の可能性を感じます。

現在、武蔵野市内には60以上の保育施設がありますが、市保連に加盟しているのは、そのうちの11の認可保育園だけです。そもそも父母会を持っている保育園がこれに近い数しかないという実情があります。父母会を持っている保育園は歴史ある古い保育園であることが多いのですが、実際に問題を抱えているのは立ち上がったばかりの新設保育園のケースもあり、こういった園には父母会がないことがほとんどです。何かしらの問題が生じたとき、個人では声を上げにくかったり、その声を拾うことが難しい状況であることから、深刻化するのに加え、行政の考え方に対する保護者たちの理解も進みません。

最近立ち上げた市保連のウェブサイトやTwitterをはじめ、ウェブを通じた情報発信やコミュニケーションには徐々に可能性を感じてきています。市保連の認知度を上げることはもちろん、父母会を持っていない保育園の保護者の皆さんには、ウェブを通じてアプローチしていければと考えています。

市保連や保育園が直面している課題はどんな内容でしょうか。

先ほどもお伝えしましたが、武蔵野市内には60以上の保育施設があるものの、市保連に加盟しているのはそのうち11の認可保育園のみです。これが市保連としての一番の課題だと考えています。これにより、限られた保護者の方々の声しか拾うことができていません。加盟園を増やすための勧誘活動も過去にしたことがありますが、なかなか思うように進まなかったことから、加盟園以外の保護者の方々の声を拾うにはどうしたら良いかを考え、ウェブを通じた情報発信やコミュニケーションに力を入れるようになりました。

新型コロナウイルス感染症拡大に伴って、対面でのコミュニケーションを最低限とする生活が長くなり、保護者同士はもちろん、保育園と保護者の繋がりも自ずと薄くなっています。これにより、人と繋がらなくても何とかやっていけるという感覚も生まれているのかもしれません。とは言え、誰にとっても孤立した子育てが辛くないはずはないので、保育園における出会いであったり、父母会活動を通じた交流であったり、これらを通じたご近所付き合いがとても重要だと考えます。「子育て家庭同士が繋がる機会の提供」は武蔵野市も目標に掲げる事項ですが、保育園がこの役割を担うことも可能であり、コロナを理由にすることなく、人と繋がるチャンスをできるだけ作る取り組みを実施して欲しいと思います。

実現に至った行政への提言や、行政と保護者との架け橋となったことを実感した体験についてお聞かせください。

まずは、待機児童の緩和でしょうか。2022年度4月時点の武蔵野市における待機児童は、3年連続でゼロを達成しました。これは市保連からの要望だけによるものではもちろんありませんが、目に見える成果です。また、兄弟姉妹別園の解消に向けた要望も、市保連としてこれまで届け続けてきましたが、令和4年度にはいわゆる兄弟姉妹ポイント制度(入所予定日において認可保育施設に在園する兄弟姉妹がいる
場合に優先項目指数+1が加算される)が復活しました。これにより従前よりも兄弟姉妹で同じ園に入所がしやすくなったと市からも報告を受けています。

新型コロナウイルス感染症拡大に関連するところでは、まず、陽性反応者が珍しかった当初は、保護者の皆さんの不安の声が実に多く、臨時休園に対する戸惑いや混乱もありました。2年が経つ今も予断を許さない状況が続いており、保護者の皆さんの不安は尽きません。この不安の声を可能な限り全て届けること、市としての対応が難しいと予測できる内容であってもまずは伝えてみることに意義があると考え、昨年度と今年度の要望書には、寄せられた要望・質問を全て添付し、市に提出しました。

また、新型コロナウイルス感染症拡大も相まって、保育施設における ICT 活用の必要性がより高まりました。保育施設におけるWi-Fi 環境の整備、保育士の ICT に関するスキルの向上などの課題があったと思われますが、保護者会・懇談会(※2)のオンライン会議ツールを利用した開催や、園生活を撮影した写真のオンライン販売などを市保連から市に要望し、実現に漕ぎ着けています。

(※2)保育園と保護者間の情報共有や保護者同士の交流の機会の場となるもの。クラス毎に年数回開催。新型コロナウイルス感染症拡大以前は、保育園にて対面で実施。園長・副園長、保育士(担任の先生方)から日頃の子どもたちの様子の共有がなされたり、保護者同士の繋がりを深める場でもあります。

「父母会活動、やれば楽しいよ!」

保育園に子どもを通わせている親御さんにお伝えしたいことはありますか?

読んでくださっている皆さんにお伝えしたいのは、「市保連や父母会活動、やれば楽しいよ」ということです。自分自身、地域に多くの知り合いができ、助け合える関係を築くことができました。それは子どものためにもなると思っています。また、活動を通じて実際に行政に影響力を持っていくのを感じると、武蔵野市の子育て環境を良くするために多少でも貢献ができているという実感も沸いてきます。
武蔵野市の未来、子どもたちの未来が良いものとなるよう、これからも市保連が存在価値のある団体として役割を果たしていけるように尽力します。


編集後記

フルタイムで働きながら3人の子育てをし、その上、PTA役員、市保連会長をこなす渡邉さん。筆者は常に横で応援やお手伝いをしてきましたが、驚きなのは、彼女はいつも前向きで不平不満を口にせず、殆ど一人でその仕事をこなしているように見える時も、常に関係者を思いやり、気遣いを忘れないということでした。

市職員の方、市議会議員の方、同じ園の係の方、他園の代表の方々と、巻き込む方は本当にたくさんいらっしゃるのですが、皆さんが渡邉さんの人柄に触れ、前向きに協力し合っていくという信頼関係の基盤ができたのは、彼女の大きな功績だと思っています。

これからも、行政と子育て現場を繋げる架け橋であるため、一緒に活動を継続していけたらと思います。

About the Author

木村佳代

武蔵野市境で生まれ育ち、現在は境南町で子育て&要介護の父の近距離介護を両立中。自動車メーカーに勤務し、新規事業企画に携わる。武蔵野市で子育てをする過程で地域コミュニティの大切さに気づき、貢献している方々に光を当てる活動に興味を持ちました。近所で挨拶出来る距離にいる人たちが笑顔でいられて、それに繋がる活動が好き。そんな輪が武蔵野市から広がっていけば良いと思っています。

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