武蔵野市でフェアトレードタウンを目指して活動するフェアトレードむさしの(以下、FTM)。吉祥寺を中心に武蔵野市には、食料雑貨、飲食、アパレル等、フェアトレードと親和性の高い店舗が集積しています。このまちで、昨今、フェアトレードの旗の下、業界を超えた繋がり、市民との繋がりが生まれてきています。あらためて、フェアトレードとは何か。フェアトレードむさしの、を立ち上げた経緯。そして、どこを目指しているのか、をフェアトレードむさしのを推進する、代表の柴山さんと林さんのお二人にお話しを伺いました。
フェアトレードむさしの プロフィール
フェアトレードむさしのは、武蔵野地域でフェアトレードの活動を推進するためのコミュニティで、主旨に賛同する以下の市民団体や企業を中心に2018年10月に発足された任意団体。
吉祥寺ハニカムプロジェクト、くらしにツナガルHatWork、シャプラニールむさしの連絡会、作ろう!みんなのジモトWa-shoiパートナーシップ、パタゴニア東京・吉祥寺、Fair Trade Shop List 、vote for by sisam FAIR TRADE コピス吉祥寺店、Meetむさしの、NPO法人みたか市民協同発電、NPO法人むさしの市民エネルギー、LeMoingTOKYO CO.,Ltd. 、Le bouquet de marguerites
FTMを立上げた経緯を教えてください
2018年当時、フェアトレードに関心があったメンバーの一人が、静岡文化芸術大学の下澤嶽教授をお招きしてフェアトレードタウンの勉強会を開きました。その時に集まったメンバーで、「武蔵野市をフェアトレードタウンにしたい」と意気投合したことが最初のきっかけだったと記憶しています。 フェアトレードが始まって半世紀以上が経ち、途上国の労働者の労働環境、生活環境が改善されたところはあるにしても、いまだ不平等に虐げられる人も多く存在し、コストを抑える企業の性質が一部の人や自然環境に大きな負荷を掛けている現状があります。
一般的に、知られているフェアトレードは、途上国における不平等の是正が中心に語られることが多いのですが、わたしたちが住むまち、働くまちにも社会的に意義がありながらその価値がしっかりと評価されていないコトやモノを改善していくこともフェアトレードだと思います。例えば、オーガニックな農作物や再生可能エネルギー、伝統工芸、地場の特産物など、こういったコトの普及をお手伝いすることもフェアトレードの役割だと考えています。
フェアトレードがめざしているのは、「公正公平な社会」だと考えています。どこで、だれが、どのように、作られたモノなのか、その中で、人、社会、環境への配慮は行われているのかを確りと知った上で買い物をすることで、生産者の生活を守り、生産することによる環境負荷が抑えられ、健全な地域経済が展開される、そんな価値観を町全体で推し進めていくのが「フェアトレードタウン」という運動です。
武蔵野市は商業が盛んであることで、そのような消費行動の価値観を多くの人と分かち合う事ができるのではないかと大きな可能性を感じています。また、商業エリアと隣接して住宅街が広がっており、生産主体と消費者である市民が繋がりを大事にしながら仲間になっていくこともできます。さらに、大学も多く、学生と協働しながら若者のユニークなアイディアを形にしたりと、これほど「フェアトレードタウン」に適した町はないと思っています。
これからの未来を考えたときに必要な環境や社会の課題を解決するための要素がこの武蔵野市には充分に揃っています。消費行動を見直し、地域から世界にインパクトを与えるような事も不可能ではないと信じながら、活動をしています。
ありがとうございます。お話しを伺い、改めて、武蔵野市がフェアトレードに適した街であることを実感しました。お話の中に出てきた「フェアトレードタウン」について教えて頂ますか。
フェアトレードタウンは世界的な認定制度で、イギリス北部のガースタングという小さな町から発祥し、いまでは30ヶ国、約2000の都市が認定を受けています。日本では(社)日本フェアトレードフォーラムが認定機関を担い、熊本市、名古屋市はじめ現在6都市が認定されています。私たちは東京で初めてのフェアトレードタウンを目指して、武蔵野市で活動しています。
認定されるには6つ基準が設けられていて、全てを満たしたうえで申請し、認定をうける流れとなります。
基準1:推進組織の設立と支持層の拡大
基準2:運動の展開と市民の啓発
基準3:地域社会への浸透
基準4:地域活性化への貢献
基準5:地域の店等によるフェアトレード産品の幅広い提供
基準6:自治体によるフェアトレードの支持と普及
フェアトレードを推進する団体があるかどうか、イベントをやっているかどうか、メディアに取り上げられているかどうか、地域でフェアトレード産品を利用されているかどうか、フェアトレード産品を取り扱うお店が多くあるかどうか、など。日本特有の基準として、フェアトレード界隈だけでなく、様々な分野との繋がりのなかで、地域経済や地域の絆を育むような地域活性化への貢献という基準もあります。そして、市議会全体の理解があり、議員が主体性をもつような形となり、全会一致での議決を経て、市長がフェアトレードタウン宣言を行うことが6つ目の基準となっています。
これらの基準を満たすことで、一部の人たちで盛り上がるような形ではなく、様々な立場に置かれる人たちが手を取り合い、「まちぐるみ」で推進する形となります。
ご説明、ありがとうございます。結構、認定基準が厳しそうな気がしますが、認定を受けるためにこれまでどのようなことをしてきたのですか。
武蔵野市の助成を受けて、大学や市の施設でシンポジウムを開催し、たくさんのフェアトレード取扱店や市民活動のブースが立ち並ぶ野外イベントを主催するなど、幅広い活動を行ってきました。コロナ禍でも、オンラインでのトークイベント開催など、活動を止めることなく、市民がフェアトレードに触れる機会を作ってきました。また、地元の企業や商店会に理解を得られるよう著名な方と会話をもつなど、目に見えない地道なことも行ってきました。
フェアトレードタウン認定を受けるために難しいと感じている点があれば教えて頂けますか。
現状、5つの基準は満たしていて、6つ目の基準(自治体によるフェアトレードの支持と普及)をクリアすることに注力しています。難しいと思う反面、楽しくもありますが、町のことをよく知ることが必要だと思っています。町の特性や地域内のつながりなど、色々な場所に顔を出して、様々な方々と会話を重ねることで少しずつフェアトレードへの理解が広がり、支持を得られるようになると思います。また、そのような機会から、面白いアイディアが生まれ、活動に繋がることもあるんです。フェアトレードタウン認定を取ることが一旦のゴールではありますが、そこに至るプロセスがとても重要だと改めて気付きました。もともと、人との繋がりを大事にすることが、フェアトレードむさしの、の大事な価値観のひとつですから。
改めて、フェアトレードタウン認定を受けることのメリットを教えて頂けますか。
さきほど、お話した通り、フェアトレードタウン認定を通して、地域の絆が深まることを期待しています。コロナ禍によって人と人の触れ合う機会が減った期間を経て、より人との繋がりの大切さを感じることがあります。フェアトレード界隈に留まらず、地域の様々な人と分野の垣根を越えて、時代のニーズに寄り添いながら、フェアトレードタウンが事業や価値観の創造に貢献し、新しい地域の文化に発展するようなことも期待できると思っています。それにより地域への愛着などが育まれ、地域に住むこと、働くことに誇りを持つような人が増えたらと思っています。その結果に様々な環境問題、社会問題が解決し、健全でずっと住み続けることが出来る町になることがゴールだと考えています。
最後に今後の展望を教えて頂けますか。
武蔵野市は、今でも十分に素晴らしく素敵な町ですが、私たちが日常では気づきにくい、気候変動をはじめとした環境問題や、不利な立場、弱い立場に置かれる人などの社会問題など、深刻さを増しています。決して他人事ではない、これらの問題を解決して誰一人取り残さない公正公平な社会の実現には、この地域をフェアトレードタウンにすることが重要だと考えています。フェアトレードタウン認定は、理想とする社会にむかっての、一つの目標であり、スタートラインだと思っています。なかなかスタートラインに立つのが難しいですが。
地域の成果は見方によっては小さいかも知れませんが、他の地域にも良い影響を与えつつ、武蔵野市に住むこと、働く事に誇りを持ちながら、健全な未来を次世代に繋げるために環境問題、社会問題に向き合うような少しだけ先を行く町になったら、より素晴らしく、素敵な町になったらいいな、という想いを携えています。
柴山真さん プロフィール
都内税理士法人に勤務。吉祥寺在住15年以上。大学在学中に「社会問題に関心を持ってもらうきっかけを作りたい」という思いから国際協力に興味を持つ。インドのコットン生産者団体やヨーロッパのフェアトレード先進地域にも直接足を運び、フェアトレードの研究に関わる。
卒業後もライフワークとして、代表を務める「フェアトレードむさしの」で武蔵野市を東京初の「フェアトレードタウン」として認定に向けて、地域活動を展開している。東急百貨店の屋上から見える富士山と青空を眺めるのが好き。
林章弘さん プロフィール
パタゴニア東京・吉祥寺に勤務。20年以上登山をはじめ様々なアウトドアアクティビティを嗜み、奥多摩が自分のホームフィールド。自然の素晴らしい景観や野生動物のダイナミックな生活を目にすることで、本当の意味での豊かな暮らしというものに思いを馳せる時がある。それがどんな事かと明確に口にすることは難しいが、山などのアウトドアフィールドから受けるインスピレーションを活動に活かすことが、自分の特性だと思う。