三鷹駅北口徒歩5分にある、一見カフェのような佇まいを見せる、「コワーキングスペースBreath」。子育て世代を中心に多様な働き方を応援する拠点として、2018年にオープン。
今回は、コワーキングスペースBreathを運営するOffice Breath 代表取締役である本多さんにお話しを伺いました。
本多夏帆さん プロファイル
株式会社Office Breath 代表取締役、Breath 行政書士事務所 代表行政書士、 武蔵野市議会議員
三鷹市育ち。中央大学法学部卒業後、ベンチャー企業でマーケティング事業に従事した後、Breath 行政書士事務所を設立 。自らが代表を務める、Office Breathや市政を通して、地域課題の解決、や多様な働き方の推進女性の子育て環境 、雇用環境の改善等の社会課題に取り組んでいる。
お客さまの様々な困りごとにお応えするために
MM 山中: 現在の活動に至る経緯を教えて頂けますか?
Breath 本多:2014年に新卒で入社したベンチャー企業を退職して、独立して間もない母の社労士事務所を手伝い始めました。少しして私も行政書士の資格を取得して、少しずつですが、業務の幅を広げていきました。多くのお客さまが中小企業でしたので、私たちへの相談も様々。それでもお客さまの悩みをなんとか解決したいという一心で業務に取り組むうちに、社労士や行政書士の業務範囲を超えた業務もたくさんありました。例えば、採用。多くのお客さまがなかなか良い人材を採用できないとお困りでした。私自身、学生時代に塾講師をやっていたこともあって人材育成やキャリアにも関心を持っていました。そこでこのようなご相談にもお応えできることもあるかもしれないと、大学のゼミなどのつてを頼りながら、学生向けのキャリア相談会なども開催しました。
このような形でお客さまのご要望に丁寧に応えていくうちに、お陰さまで仕事は順調に増え、スタッフも母と私の二名から、2018年には15名までになりました。
育児と仕事の両立と限界
MM 山中: 短期間ですごい拡大ですね?
Breath 本多 : そうですね。自分でもびっくりしています。事務所がここまで大きくなったこともそうですが、その間にプライベートも含め私自身にもたくさんの変化があり、働き方が大きく変わりました。
MM 山中: どのようなことですか?
Breath 本多 : 2015年に結婚し、2017年の夏に出産しました。
MM 山中: それは大きな変化でしたね。出産前後はお休みされたのですか?
Breath 本多 : いえ、産後3週間で復帰しました。自分で事務所を持っていると、大きな企業のように、半年、1年のような長期間休むことができません。月に一度のお客さまへの定例訪問を休みたくないと思い、子供が早く生まれてくるように、重いお腹を抱えながら、中道通りを歩いて何度も往復しました。すこし怪しい妊婦だったと思いますよ(笑)
MM 山中: それはすごい。(笑) ストイックですね。復帰後も育児との両立は大変だったのではないでしょうか?
Breath 本多 : そうですね。大変でしたが、それでも何とか育児との両立を図っていました。授乳しながら、顧客訪問を続ける。そんな日々を続け、仕事を回していました。なんとかやってこれたのは、夫、母、そして妹と家族総出で育児を支えてくれたからなのですが、家族の誰一人かけても成り立たないほどのぎりぎりのところで育児と仕事のバランスをとっていました。
そんな中で、夫が研修で3カ月間ベトナムに行くことに。これが育児と仕事の限界を決定づけるものになりました。育児のワンオペの限界を感じた時でしたね。子供の成長に伴い、子守の時間が増え、仕事にも支障が出てきました。普段、短時間で仕上げることができる、簡単な書類が作れなくなる。子供が横にいて物理的にも集中的できないということもありましたが、ひとりで何もかもやらなくてはならないという、思いが強く、精神的にも追い込まれていたのかもしれません。イライラして、仕事が進まない状況が続きました。そんな時には、数時間、母や妹に子供を預けてカフェに駆け込んで仕事をしました。
自分は何で育児と仕事の両立にここまで苦しまないといけないのかとすごく悩みました。そんな中、ふと思ったのです。悩んでいるのは自分だけではなく、もしかしたら、共働きでフリーランスをやっているママも私のように悩んでいるのかもしれない。特に保育園にもいれられない年齢の幼児を持つママは預ける場がないですからね。そう考えると、自分のことを忘れて、なんとか同じ境遇にあるママの助けになりたいと思いました。そして、それはビジネスチャンスにもなるかもしれないとも。
ワンオペの限界から生まれたBreath
MM 山中: 自らの苦境をビジネスチャンスと捉えることがすごいですね。
Breath 本多 : もともと、行動の源泉に「人のために役に立つことをやっていきたい。お金は後からついてくる」という考えを持っていました。「人のために役に立つこと」だけを考えるのではあればボランティアでもよいのですが、長い目でみると続けるのが難しいこともあると思います。ですから、持続的にやっていくにはある程度ビジネスとして成り立つ仕組みが必要だと考えています。
MM 山中: それでBreathのビジネスモデルを考案するのですね。
Breath 本多 : そうですね。2018年の夏に自らの経験からビジネスニーズを認識したのですが、会計士さんのサポートを頂きながら、それから数週間でビジネスプランを作りました。すると、非常にラッキーなことに、なんと8月には今のBreathがある店舗が空きに出たのです。北口のこのエリアはタワーマンションもあり、子供の一時預かりのニーズが高いし、子供も預かれる子育て経験のある先輩ママも多い。駅前から徒歩5分と いう立地の駅前のわりに駅前より安いという意味で、良い物件でした。
これはと思い、即決し、11月の開業を目指し、資金集めに奔走しました。改装費等に充てるためにクラウドファンディングもやりましたが、多くの方に支援頂きました。金銭的なサポートのみならず、地域に繋がりができたことは大きな収穫でした。それまで吉祥寺、三鷹にはいましたが、地域の繋がりもなく、同年代のママ友もいなかったのですが、クラウドファンディングを通して、同世代のママパパとの繋がりができました 。
子育て中のママの要望に応える新たな働き方
MM 山中: 子育て中のママが中心となりBreathを運営しているそうですね 。
Breath 本多 : 現在、幼児から中学生の子育て中のママがスタッフとしてBreathの運営を支えています。子育て中のママですから、働ける時間も人それぞれです。特に学校のない、夏休みや冬休みの期間は働ける時間が限られてしまいます。多くの企業ですと、働く時間を変えられませんので、ママは預ける場所探しに苦慮することになります。ですので、Breathではそんなママの状況を考慮し、数時間からでも働けるシフト制を敷いています。業務毎に2人以上のチームを作り、一人のママが、子供の病気などで急遽出社できなくなった場合でも、業務を遂行できるようにしています 。
MM 山中: 数時間からでも働けるというのは子育て中のママには助かりますね。日程調整など、業務運営に難しさはありませんか?
Breath 本多 : 日程調整に必要となるコミュニケーションに時間がかかるところが一番大変なところですね。ただし、子育て中のママに働く場を創っていきたいという思いが強いので、そのあたりはやむを得ないと思っています。 あとは、スタッフの育成が課題です。多くのスタッフのシフトに入れる時間がかなり限られているので、勤務時間中に育成に割ける時間がほとんどありません。我々が行っている業務は多岐にわたるため、スタッフ一人ひとりの能力を高めていく必要がありますが、限られた時間の中でいかに一人ひとりの能力向上を図っていくか、頭を悩ませるところですね。保育士からWebデザイナーまで、スタッフのこれまでのキャリアも様々ですから、強みを活かしつつ、弱みを補完し、高め合っていけば、良い方向に向かっていくのかなとも考えています 。
MM 山中: 今後の展望を教えてください。
Breath 本多 : 地域の困り事と子育て中のママパパの働きたいという要望に応えることをこれからもやっていきたいですね。組織を持続的に運営していく為には、収益性を高めていく必要があります。社会課題を解決しながら、収益性を高めていくことは、恐らく通常のビジネスよりも難しいところもあると思います。だからといって、収益性を高めるために、人員削減してコストカットをやるようなことはやりたくないですね。収益性の向上が目的化してはいけないと思います。そこは創業時の思いを忘れずにチャレンジし続けていきたいですね。
編集後記
2019年4月の市議会議員選挙でみごと初当選された本多さん。 Breathの仕事と育児、そして、議員活動と三足のわらじを履いて地域課題、社会課題の解決に向け、さらに邁進していくことになります。自らが実践することで、一つひとつ既成概念を破り、ロールモデルを創っていく。底知れぬ行動力で新しい武蔵野を創っていく本多さんにこれからも注目です。