共働き世帯にとって、子どもの長期休暇中のお弁当作りは大きな負担となっています。特に学童クラブでは給食が提供されておらず、保護者が毎日お弁当を準備しなければならない状況です。食中毒やアレルギーの問題もあり、学童での昼食提供には慎重な姿勢が多くの自治体で見られる中、23区内や近隣市(例:三鷹市、小平市、八王子市)では、自治体が主導し、給食や宅配弁当の提供が進んでいます。自治体サービスとしては確立していない武蔵野市で、課題解決に向けて自ら仕組みを作ろうと活動するGTO(学童宅配弁当応援隊)にお話しを伺いました。

GTO(学童宅配弁当応援隊)概念図

父母会による宅配弁当トライアルの開始

GTOを立ち上げた経緯を教えてください。

活動のきっかけは、長女が小学生になった時ですね。私は会社勤めをしているので学童のお世話になっているのですが、入学した年の夏休みに初めて、1ヶ月以上こどもに家庭からお弁当を持たせるという経験をします。毎日のお弁当作りがこんなにも負担になるとはそれまで想像できませんでした。保育園では一年中給食があったのでこれまでこの問題に悩むことはなかったのですが、私には3人子どもがいるので、これが毎年続くのかと思うとなかなかの負担だと思って。

働く親が陥る「時間の貧困」

宅配弁当の取り組みは、うちの子が通っていた学童ではコロナ前に過去に父母会※(学童にこどもを通わせる父母による任意団体)主体で1日だけ、総勢6人の父母の現場立会いのもとトライアルを実施した、という状態でした。宅配弁当では「注文したお弁当を注文したこどもに確実に届ける」ということをするのですが、取り違いなどのミスを避けるため、最後こどもがお弁当を受け取るところは必ず「大人の目」が必要です。

宅配弁当プロセス分解(父母会MAXの場合)

この「大人の目」のところですが、実は一番のハードルで、食べ物に関する業務はアレルギー事故のリスクを伴うため、学童支援員には簡単にはお願いできない状況でした。そのため、企画側である父母会が責任を持つという意味で父母会メンバーによる現場立会をする必要がありました。

その後、宅配弁当を求める強い要望を背景に父母会主体のトライアル企画を継続していき、回を重ねるごとに効率化を繰り返してしていったのですが、結局は「父母会が企画主体である限り、当日の現場トラブル対応窓口として父母会メンバーの現場立会が必要である」ということが浮き彫りになってきました。

立会いメンバーを当番制で決めていくのですが、中には会社を休んで立会う父母や、立会いができないから宅配弁当を頼まない、という方も見えるようになり、「父母による立会は働く父母達には本末転倒である」という声が強くなってきました。

父母立会いをなくすために本取り組みを父母会主体ではなく、学童主体・行政主体にすることを検討してもらえないか、と学童クラブ、またその母体組織であるこども協会や行政側に相談してみたのですが、父母立会の本末転倒論には共感して頂いたものの、アレルギー問題や食中毒のリスクもあって、なかなか導入の壁が高そうと感じたんです。

さらに、この立会い業務問題は、うちの子が通っている学童クラブだけで解決するのは不可能だと感じました。他の自治体で宅配弁当を導入している事例もあるし、武蔵野市の他の地域の学童でも同じ問題が生じているのかを確認しようと思い、市内の知り合いがいる学童クラブにあたってみました。すると他にも自主的に父母会主体でお弁当を提供しているところがあることがわかり、互いの企画メンバーが集まり勉強会を始めました。

私も子供が2人いて、やっぱり、木村さんと同じ思いを持っていました。「なんとかならないかな」って思っているところに、木村さんの勉強会があると聞いて参加しました。その時、木村さんの考えに共感して、木村さんを応援したいと思ったのがきっかけでした。この勉強会をきっかけに、木村さんと一緒に、市内の5つの小学校の学童クラブ父母会横断で「チーム宅配」を立ち上げることになりました。

私は、チーム宅配が立ち上がってから参画しました。私も子供が3人いますが、子供が通う学童クラブ父母会の元会長が非常に情熱を持っていた方で、コロナ前に夏休みのお弁当の提供を数日間ですが、試行していました。とても好評だったようなのですが、残念ながらコロナ禍でそれも消えてしまっていました。私自身が父母会の会長に着任したのを機に、お弁当の取り組みを復活させようと、チーム宅配に入会しました。

初めての長期休みで見えた手ごたえとニーズ

あらためて、GTOの取り組みを教えてください。

先ほどお話した、主に情報共有を目的に作った「チーム宅配」を進化させた組織です。主な業務は、市内で長期のお休み期間中に学童クラブでお弁当を提供することを検討する学童とその父母会への導入サポートを行っています。経験のない学童と父母会がお弁当提供に踏み切るには結構なハードルがあります。まず父母会には本取り組みを進める担当者である「お弁当係」が必要です。お弁当係の仕事は、お弁当事業者の選定、発注・集金の仕組み、学童の現場で働く支援員さんをはじめお弁当提供をサポート頂く方へのガイダンス用マニュアルづくり、そのための学童と父母会間での覚書作成など、多岐にわたります。加えて、私たちGTOも、お弁当係の皆さんも自主的にボランティアで導入をしていくので、時間的な制約もある中での取り組みです。決して、私たちもプロではないのですが、ここ数年で、自分なりに手探りで進めてきて得たノウハウや学童クラブ父母会間を結ぶネットワークが多少なりありますので、それを使ってサポートさせて頂いています。

今年の夏休みがGTOとして活動する初めての長期休みでしたが、活動の手ごたえと課題を教えて頂けますか。

今年、期間の長短はありますが、市内に12ある公設学童クラブの全てで、宅配弁当の提供を経験したことがある、という状態にすることができました。初めて導入する学童クラブでは、私たちが各関係者に説明に歩いたところもあります。そして、何よりも大きく前進した理由は、「宅配弁当を導入したい」と頑張って頂いた、声を上げてくれた親御さんたちと、その声を取りまとめて前に進めようとしてくださったお弁当係の方々の存在です。強い思いがないとなかなかこのような取組みは広がりません。導入後の利用者アンケートでは、「いざという時にお弁当を頼めると思うと精神的なストレスが軽減された」「産まれたばかりの小さいこどもがいるので本当に助かっている」「自分で作るお弁当だと冷凍食品ばかりのワンパターンになってしまうが、プロの栄養士さんが監修するバランスのとれたお弁当を食べさせてもらえるのはありがたい。お弁当へのメモ書きもあわせて良い食育になっている」「家庭以外の味を経験できる機会をもらえて嬉しい。ゴーヤチャンプルに挑戦して食べられたと喜んでいました」など、トライアルを実施して様々な親御さんからの賛同の声を頂き、確かなニーズがあることを改めて認識しました。また、心配していた「お弁当づくりを通じた『親子の時間』が減ってしまうのではないか」という懸念については、実は宅配弁当を親子で選ぶ際、あるいは感想を確かめる際にむしろ食に関する会話が増え、良い食育に繋がっているということがわかってきました。

導入を進められたことに対する手ごたえはある一方で、やはり、我々も含め親御さんがほぼボランティアで学童クラブの宅配弁当の導入と運用を継続的に行っていくのは限界があると感じています。実際、限界がきて、一度導入した宅配弁当をとりやめてしまったところもあります。今回は、トライアルの位置づけで行っていますが、今後、本格的に導入していくとなると、利用者も大幅に増加していくと思います。その際、今のように、各学童の親御さんがボランティアで宅配弁当業者との契約や受発注の調整を子供の長期休暇毎に行っていくは相当な負担になることは間違いなく、これはボランティアの範囲を超えた業務量と責任を抱えることになるので今の枠組みのままでは継続はほぼ不可能であると思います。

ですので、他の自治体の導入事例のように、公共サービスの一環として、自治体が主導し、しっかりと予算と担当者をつけて、業務として運用していくのが望ましいと思います。

「前例がない」を超える建設的な議論の場作り

公共サービスを担う行政や議会の反応はいかがでしょうか。

今年度の取り組みを構想したのが、昨年末から年始にかけてだったのですが、行政の方、議員の方、そして、関係者の方を招き、ワークショップ型の勉強会を今年の1月に開催しました。その後も継続的に開催をして、なかなか伝わりづらい、宅配弁当の導入検討の背景にある、子育て世帯の働き方の変化、子どもの長期休暇中のお昼の問題、お弁当を毎日準備することの負担など、を理解してもらう場としました。また、その課題に対して、「前例がないから難しい」という、よくある論理展開ではなく、新しいことをやるには課題があるのは当たり前なので、「どのようにしたら、この課題を解決できるか」、所属組織の肩書に縛られることなく、フラット且つ建設的な議論できるような場を設計しました。
30名余りの方にご参加いただき、宅配弁当にかかわる現状への理解が進んだこと、また、参加者の皆さんお一人お一人が当事者となり建設的な意見が活発に出て非常に良い会になり、関係者のサポートも頂きながら、今回の夏休みに向かって導入準備を進められたと思います。

市民と共有する「社会で支える子育て」の未来像

GTOの今後の展望を教えてください。

やはり、最終的には他の先行導入自治体のように、武蔵野市でも宅配弁当を行政サービスの一環として捉えて、市に事業をリードして頂くことです。子育ての形も時代と共に変化していきます。今の時代の子育てにあった形で、行政サービスをアップデートすることが必要だと思います。
そのために、私たちができることは子育て現場のリアルを、今回のトライアルで見えてきた武蔵野市の学童で宅配弁当を実施する上での現状と課題の分析、さらには先行導入自治体の実施スキームなどを分析して、武蔵野市で、行政サービスとして導入するにはどのようなスキームが適切かを具体的に描くことだと考えています。もちろん、制度設計に近いものになりますので、武蔵野市との協議をベースにしていくことになると思いますが、トライアルで培ってきたリアルな情報・ノウハウが私たちに蓄積していますので、そのあたりを参考にしながら作っていくという形になるかと思います。

また、子育て中の当事者はもちろん、その他の市民の方にもこの課題を知って頂きたいと思います。宅配弁当というテーマに絞った活動ですが、共働き世帯が増える中で、不可欠となってきている学童の在り方、社会で子育てを支える仕組みを考えることにも繋がります。

こうした子ども関係の市民活動を主催する際に、毎回お話しすることがあります。こどものために大人ができることとして、衣食住を整えること、教育を授けるなど色々あると思いますが、次世代にむけて良い社会をつくること、があると思っています。私たちはたまたま学童のお弁当問題と出会い、市民としてできることは何か考え、仲間と活動を続けてきたら今のような形になっていました。今、少子化が進むこの世の中で少しでも無理なく子どもをもち育てることが選択できるように、子育てをする方々に少しでも「余裕」を提供したいと思っています。子育てをする方々に心のゆとりができ、子どもをとりまく環境が笑顔で満ちるよう願ってやみません。応援いただけたらと思います。

意見交換会スライド 公開用.pdf

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About the Author

山中敦志

Co-Founder

武蔵野市吉祥寺北町在住、一児の父。学生時代にアメリカに留学、市民主体の自治に関心を持つ。 企業で環境・社会関連の業務に従事する傍ら、地域から自然エネルギーの普及を目指す、 NPOむさしの市民エネルギー(むーそーらー)やNPOみたか市民協同発電で地域活動を行う。 市民、市民団体、行政、企業の接点を創出し、社会的課題の解決すべく、MMの立上げに参画する。 武蔵野市のおすすめスポットは市役所隣の市民公園です。週末には市民公園の奥にあるフットサルコートで息子と近所の子供たちとサッカーをしています。

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About the Photographer

上澤進介

Co-Founder

武蔵野市関前在住、二児の父。1976年神奈川県川崎市生まれ。栃木県鹿沼市育ち。多摩美術大学を卒業後、建築設計事務所、広告制作会社を経てWeb制作会社を起業。子育てのために武蔵野市へ転居。会社も武蔵野市に移転して職住近接を実現。地域活動に関心をもち2017年2月から武蔵野市「地域をつなぐコーディネーター」の一期生としてコミュニティ活動に関わる方々と学びを深めている。 武蔵野市のおすすめスポットは三鷹の堀合遊歩道から中央公園へ続くグリーンパーク緑地です。子供たちと遊びながら中央公園へ向かうのが楽しいです。