吉祥寺の街に置かれた赤い椅子を知ってますでしょうか?その裏には「まち」と「ひと」をつなぐ素敵な仕組みを支える人達がいます。

今回インタビューさせていただいた「赤い椅子プロジェクト」さんは、思い出がこもった椅子を譲り受け、その椅子に子供や街の人と一緒に赤い色を塗ります。そして、完成した椅子を吉祥寺の街に置き、椅子という場を街に創り出す活動をされています。

街に置かれた赤い椅子は、子供や街を訪れる人たちの憩いの場となり「まち」と「ひと」をつないでいます。

インタビューに伺った際に、赤い椅子プロジェクトさんの事務所の窓を見上げると「Meetむさしのさまいらっしゃいませ」のメッセージ(窓ツィート)が貼ってあり、感動しました。

活動の始まり

Q 赤い椅子プロジェクトは、ご高齢の方の声をヒントに生まれたと聞きました。そのエピソードをお聞かせ頂ければと思います。

加藤さん 赤い椅子プロジェクトは、吉祥寺コミュニティデザイン運営委員会の主催した「第1回吉祥寺コミニティデザイン大賞」に応募して、加藤と加曽利、および当時のメンバーで始めました。その後、平野は別の団体から合流しました。その企画段階でフィールドワークで地域の方にヒアリングをしました。街に座ってるおばあちゃんに、どんな場所が必要かというインタビューをした際に「休む場所が少ない」という答えから、街に椅子を配置する赤い椅子プロジェクトのきっかけになりました。

赤い椅子の赤い色に込められた想い

Q  「赤い椅子」の「赤い色」には人と人とをつなぐ「運命の赤い糸」というイメージを受けました。赤という色に込められて想いを教えてください。

加藤さん 運命の赤い糸、人と人とをつなぐというのが一番の大きな理由です。

赤という色そのものが、人を惹きつけます。遠くから見ても視認性が優れています。郵便ポストが遠くから見ても郵便ポストだとわかるように、赤い椅子だってわかってもらうことができます。街なかを歩いてる人がそこに赤い椅子があるってわかったら利用してもらえます。見てもらえるわかりやすい色だから、赤という色を選びました。

私を今回のインタビューにつなげてくれたのも赤い色でした。吉祥寺の駅にあった赤い椅子が気になり、自分で検索してホームページまで辿り着いて、インタビューの候補を決める時に赤い椅子を思い出し、インタビューさせていただくことになりました。赤い色はそれだけ力があると思います。

街で歩いていると赤い色が目を惹きます。アムリタ食堂さんやsofaにもおいてありますね。

平野さん sofarさんでは、ちょっと小ぶりな椅子を置かせて頂きました。小さなお子さんにちょうど良い大きさなので、お母さんがインスタ映えするから小さなお子さんを座らせ写真を撮られたり、近所の小学生が楽しそうに座ったりしていると伺いました。この椅子がなければそうならなかったとおっしゃって頂いたのが嬉しかったです。

椅子の輪の広がり

Q 赤い椅子はどのようなプロセスで街に置かれるのでしょうか?また、最近になって赤い椅子は椅子の置き方なども変わってきてますでしょうか?

加藤さん 椅子を置かせてもらうプロセスも変わってきていて、当初はお店に直接「椅子を置かせてくれませんか」とお願いしていました。
最近では、おかげさまで口コミで広がってきています。良さそうなお店を教えてくださる方や名乗りをあげてくださる方も増えており、紹介がきっかけで置かせてもらうという形にシフトしてきています。

また、椅子を置かせてもらう際には、どのような椅子を置くかを相談させてもらってます。椅子1脚1脚が違う事から、そのお店に合った椅子を提供させてもらっています。

Q 次に赤い椅子を置きたい場所はありますでしょうか?

加藤さん 例えば、中道通りなどで道を個展のようにして、赤い椅子を並べたり、テーブルを置いたりマルシェを開いたり、カフェにできたらいいななど、そこらじゅうに置ければいいなとは常に考えてはいます。どこに置けばというより、街中を歩いている人が佇んだり、滞在できる場所が創出できたらいいなと思ってます。ただ、吉祥寺は道と建物の間が狭いので、公園などに柔軟に置いていければいいなと話しています。

話を聞いていて、椅子が空間を作る装置の一つだと感じました。

加藤さん 最初は、井の頭公園にあるようなベンチという案も出ました。ただ、ベンチは持ち運びができないので、椅子にしました椅子はハンドリングが良く、手軽に持ち運べたり、椅子は向きを変えることができます。椅子は二つ以上あれば、向きを変えれば、向かい合わせての空間ができます。そういった使い勝手の良さや空間につながることができるので、椅子を選びました。

椅子に座ると目線が代わり、子供の目線に立てたりなど、街の見方が変わると感じました。

加藤さん パールズホワイトという宝石屋さんでは、お散歩中の保育園のお子さんが椅子に座って、その度に店主さんが出てきて会話されたりと、コミュニケーションが生まれています。コミュニケーションを生むというのも私達の目標の一つだったので、そのような場所が創出されて嬉しく思っています。

赤い椅子から街のつながりの芽が生まれる

Q 赤い椅子プロジェクトは、最初から今の形だったのでしょうか?

加藤さん 当初理想としていたのが、小さなお子さんを呼んで塗装ワークショップイベントを開くことでした。ただ、最初はいきなりイベントをするといっても認知度がないので、サンプル作りとして自分たちで椅子を塗装していました。

その後、露出する機会なども増え、中道通り商店会の会長さんからお誘い頂き、西公園の秋祭りで塗装ワークショップイベントを開く機会を頂きました。それがきっかけで赤い椅子の塗装ワークショップイベントを開催することができました。

最近では、武蔵野クリーンセンターさんから声掛け頂いて、エコイベントの際にワークショップを開いたりしています。

地域のお祭りで塗装ワークショプを開くという話を聞いて、お祭りの原型ってそんなプロセスで生まれたのかなと想いを巡らせてしまいました。

子供に好きに塗ってもらいたいけど、家の中ではなかなかできないので、広い場所でそういう体験ができるのは嬉しいですね。

「街の原風景」「物を大切にする心」を育む赤い椅子

Q 赤い椅子の塗装ワークショップに参加した子供達は、自分が色を塗った椅子が街に出るという体験と通し、とても嬉しいと感じるだろうなと思いました。参加した子供からそういう声も聞いたりするのでしょうか?

加藤さん お祭りでのワークショップを3年連続で開催したのですが、2年目から、前の年に来てくれたお子さんがリピーターになって参加してくれました。「去年も来たんだぜ」と話す子がいました。「自分が塗ったんだぜ」と楽しそうに話すのを聞いてとても嬉しく感じました。
お子さんが自分達の手に触れる場所や街を原風景として記憶してもらうことが、将来にとって重要なことだと思ってますので、赤い椅子を通してそういう効果が少しながらでもあるのではと思います。

お子さん達も自分達が関わった椅子が街に並んでいるのを見ることができるのは嬉しいですよね。

加藤さん 赤い椅子の理念の一つに、人のつながりの他に「物を大切にするという心を作る」とあります。塗装ワークショップを通して、それが具体化できていると思います。

平野さん 椅子に色を塗る作業は、子ども達は飽きちゃうんじゃないかなと思っていたんですが、親御さんがもう帰るよと言ってもまだ塗っていたりと、普段できない空の下で色を塗ることができるのが楽しいんだろうなと感じました。

そして、子ども達が夢中で赤い色を塗っているのを見ると、「子ども力」というものを信じたいなと毎回感じますね。

大切な椅子を置かせてもらった場所

Q 赤い椅子の活動通して大切な場所を教えて頂けますでしょうか?

加藤さん どの場所も私達が置かせてもらいましたのでどこも大切な場所です。

街のアイコンとして赤い椅子が存在してくれるといいなと思っています。そして、椅子を置く事でコミュニケーションが生まれればと思っています。店頭に置いて腰掛けてもらったり、レジカウンターの前に設置して荷物置きに使ってもらったり、腰掛けてもらったり、商品を陳列してもいいと思います。

中道通り商店街にある千恵蔵さんは理想的な使い方をしていて、腰掛けていったおばあちゃんと会話が生まれ、お会計の時には椅子を荷物置きにしています。

おもちゃを販売しているNIKI TIKI(ニキティキ)さんのベビーカースペースにも5脚ほど置かせてもらってます。

平野さん NIKI TIKI(ニキティキ)さんの赤い椅子のある場所はムーバスのバス停の近くにあって、年配の方がバスを待てるような空間にもなってます。バスの待ち時間に子供を近くに感じることができる素敵なパブリックな空間になっていると思います。

全国に広がる「街を想う色の椅子」の繋がり

Q 大森西荻窪や小金井のsofarさんにも設置されています。赤い椅子が広がってると聞いていますが、広がりについて教えて頂ければ幸いです。

加藤さん 西荻窪ではイベントが開催された際に、声を掛けて頂きました。また、吉祥寺で勤務していたメンバーが、大森に異動になり、そこでのイベントに繋いでくれ、開催することができました

人が移動することで、赤い椅子も一緒に連れて行ってくれて、人が繋いでくれた椅子なんじゃないかなと思っています。そんなつながりでどんどん人を介して、椅子を通じて広がっているかなと思っています。

姉妹プロジェクト

加藤さん 最近では阿佐ヶ谷で、「ふらり赤い椅子」というプロジェクトが始まりました。阿佐ヶ谷のすずらん通りに、お年寄りが座れるように椅子を置いています。

また、新潟市の金津地区では「地域で見守りプロジェクト ぴいす金津」さんが防犯のために街に椅子を置くという取り組みをしています。その椅子は、オレンジ色なのですが、オレンジ色には犯罪を心理的に抑止する力があるようです。

加曽利さん 椅子に目のシールを貼っていて、椅子が子供達を見守っている。近くのおじいちゃん、おばあちゃんが見守っているというような有機的な意味合いも持っています。

色々な色で想いを表現できるなと感じました。

加藤さん また、いろいろな色の要望があり、多色展開もしたいと思っているのですが、メンバーの赤い色への想いがあるのでまだ実現はしていません。

加曽利さん それぞれの街の様々な色の椅子を受け入れることで、幅が広がって、お互いの情報交換もできています。色を決めないことで出会いが広がっているのは嬉しいなと思います。


「赤い椅子 姉妹プロジェクト約束ごと」姉妹プロジェクトを希望される方は
問い合わせしてみてはどうでしょうか

色々な色があるのは、戦隊ものの〇〇レンジャーみたいだという話で盛り上がりました。赤い椅子プロジェクトは、多様性を受け入れることでつながりを持って広がっていくのだと感じました。

赤い椅子からつながる今後の展望

Q 活動を広げてるための、今後の展望を教えてください。

加藤さん 活動の手幅を広げていきたいと思っています。椅子を通じてコミュニケーションを取るのが目標なので、つながりそのものを作る方も手を広げて行けたらいいなと思っています。ものを作るということができれば活動のための資金などにもつながると思ってます。メンバーがエコバック、マスクなどのグッズ制作の企画も行っているところです。

メンバー紹介

赤い椅子プロジェクトさんは、7名で運営されています。今回インタビューさせて頂いた加藤さん、加曽利さん、平野さん以外にも小松さんや水野さん他2名の方で活動されています。

加藤さん

バノラボ(建築設計事務所) 代表
「赤い椅子サポーターの方が集まってきてくれればいいな」「赤い椅子だけでなく、つながりを持てるものを作っていきたい」

加曽利さん

バノラボ(建築設計事務所) 

平野さん

まちづくりコミニティ支援アドバイザー
「赤い椅子は子供でもまちづくりを理解できる」「赤い椅子は、まちとやさしい接点が持てる」

・水野 卓さん(総合建設コンサルタント会社勤務)

・小松 由美さん
 ハーモニカ横丁生まれ、吉祥寺在住、立教女学院短期大学卒業。
 吉祥寺を中心に日々地域活動をしています。茶道師範でもある。

・山田 友紀さん
 東京生まれ。成蹊大学法学部卒業。小学校から大学卒業まで吉祥寺に通う。
 お菓子作りが好き。
 お菓子コラボ企画で声を掛けられたのをきっかけにメンバーになる。

・永田 英奈さん(商業施設勤務)
 

武蔵野の好きな場所

Q 武蔵野の好きな場所を教えてください。

加曽利さん 井の頭公園にある一番最初に咲く河津桜が好きです。井の頭公園で平野さんとランチミーティングなども開催しています。

平野さん 武蔵野プレイスの前のベンチがある空間が好きです。

加藤さん 南口のパークロード商店街やハーモニカ横丁など、吉祥寺の中の高密度な場所が割と好きです。

結び

吉祥寺に置かれている赤い椅子のコンセプトが素敵でとても気になってました。椅子を誰が置いているのか、どのように街に設置されているのか、その疑問の答えを知ることができました。

赤い椅子プロジェクトのお三方の話を聞いていると、想像していた以上に、赤い椅子プロジェクトの皆様の街や人を大切にする想いがそこにはありました。そして、その想いに触れることができとても嬉しく想いました。

インタビューを通して、もっともっと赤い椅子を知ってもらいたいと思いました。そして、赤い椅子を通して生まれた出会いやつながりなど、素敵なストーリーを知りたいと思いました。

もし、街で赤い椅子を見つけたら、一度座ってみてください。椅子からは温かい温もりを感じると思います。その温もりは、椅子を譲ってくれた人の想い、椅子に色を塗った人の喜び、椅子を受け入れてくれた人の優しさ、そしてそれを支える赤い椅子プロジェクトさんの想いだと想います。

そして、椅子に座って見た街の風景は普段より少し優しい色合いになっていると思います。

About the Author

しげ3

Writer

就職お手伝いサイト mikkework(みっけワーク)代表、地元応援サイト「地元を応援したいんだ!」管理人、「吉祥寺テイクアウトMAP」管理人、Code for Mitaka/Musashino所属吉祥寺同好会所属、ブックマンション棚主、SE(本職)など、いろいろ頭を突っ込んじゃう人ですw

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About the Photographer

上澤進介

Co-Founder

武蔵野市関前在住、二児の父。1976年神奈川県川崎市生まれ。栃木県鹿沼市育ち。多摩美術大学を卒業後、建築設計事務所、広告制作会社を経てWeb制作会社を起業。子育てのために武蔵野市へ転居。会社も武蔵野市に移転して職住近接を実現。地域活動に関心をもち2017年2月から武蔵野市「地域をつなぐコーディネーター」の一期生としてコミュニティ活動に関わる方々と学びを深めている。 武蔵野市のおすすめスポットは三鷹の堀合遊歩道から中央公園へ続くグリーンパーク緑地です。子供たちと遊びながら中央公園へ向かうのが楽しいです。