あなたはなぜ働きますか?
社会人2年目を迎えたインタビュアーが、むさしの地域にゆかりのある人の「働く」を取材する企画『あの人の”はたらく”に迫る』
インタビュー対象者の人生を辿りながら、ライフステージ毎の仕事、生活、抱いていた感情などについて深掘りしていきます。
第3回目は、川上晃史さん。フィジーに住み、現地の社会課題を解決する事業を運営しています。
「すごい人ではなく、ふつうの人のストーリーとして読んでほしい」と語る川上さん。異国で自分のビジネスを立ち上げるまでに、どんな「働く」を経験してきたのでしょうか?
川上晃史(かわかみ あきふみ)さん プロフィール
1986年、東京都生まれ。埼玉県内の高校卒業後、2006年に一橋大学社会学部入学。在学中は国際NPOでの活動に力を入れる。2010年から7年間、外資系の消費財メーカーに勤務。2017年にフィジーでの留学事業会社へ転職。
その後2021年に独立し、Social Innovation Fijiを立ち上げる。日本の学生をフィジーに派遣するSIF Academyを主軸に、日本とフィジーをつなげる事業を複数展開している。
学生時代から武蔵野市のクラフトハウスばくに通い始め、むさしの地域とのつながりを持つ。現在、会社の日本法人をクラフトハウスばくに置いている。
Social Innovation Fiji
https://www.sifiji.org/


はじめまして。本日はフィジーと日本をビデオでつないでお話をうかがいます。さっそくですが、学生時代のことを教えてください。課外活動にかなり力を入れていたとか。
第一志望だった大学には届かず、別の学校に入りました。やりたいことはまったく決まっていませんでしたが、「努力してまわりと差をつけなければ」と常に思っていました。成長のために、「いちばん大変そうだ」と感じた国際的NPO団体の日本支部の活動に参加しました。
順風満帆な学生生活のスタート、という訳ではなかったのですね。
そうですね……。このNPOは、日本と海外の学生のインターンシップ事業をしていました。双方の国の企業に学生をインターン生として送るんです。打ち合わせのために、よくスーツを着て企業訪問をしていました。
すでに社会人のような姿ですね!活動で印象的だったことはありますか?
自分の世界のちっぽけさを見せつけられた瞬間です。私と同い年くらいのインド人の若者が、海外で団体の支部立ち上げに奔走する姿を目にしました。彼女は人と話す力や情報を集める力に長けていましたが、私にはそんな力はなかった。高校でも浪人でも、毎日塾で一生懸命勉強をしてきたのに、です。勉強を強いる日本社会への問題意識がふつふつと湧いてきました。
一方、学生時代にはむさしの地域にあるクラフトハウスばくにも通ったと聞きました。
クラフトハウスばくは武蔵野市でコミュニティスペースを運営する団体です。「ばく」の人たちは、お金自体にあまり価値を見いだしていませんでした。対価性を求めず、人やコミュニティのために役に立つことに幸せを感じる。そんな価値観が心地よく、自分の中に自然ととりこまれました。
「相容れないものでもまずは知る」
大学卒業後は外資系の大企業へ就職されますね。川上さんの学生時代からすると、NPOや行政など公共性が高い組織で働かれると思いましたが、なぜ民間企業で働くことを決めたのですか?
就職活動の時は、民間企業=お金を稼ぐところ、という考えを持っていました。そこで働いている人たちが、どのように幸せを見出しているのかを見てみたかったんです。就職した企業はお菓子やペットフードの世界最大級のメーカーで、規模拡大によって利潤を得て成長をする典型的な企業組織でした。「ばく」の価値観とは真逆ですが、お金から得られる幸せを自分も経験してみたかったんです。
相容れないものにあえて踏み込むとは、なかなか信じられません。不安はなかったのですか?
私は「相手を批判できるのは、本当に相手のことを知ってからだ」と思っています。自分が理想とする世界のよさは分かる。一方、理想から離れた世界のよさも知っておくことにも意味がある。そう思います。
なるほど……。そんな背景で踏み入れた会社で、どんな仕事が待っていたのですか?
サプライチェーンを管理する仕事をしました。会社で最もきついと言われる部署で、深夜まで働くことも多かったです。周りの人に恵まれてなんとか7年間勤め上げました。
なかなかに大変な職場だったと思います。どんな気づきがあったのですか?
「お金をもっている裕福な人」と「お金がない貧しい人」を切り分けない考え方です。同僚は皆、お金をしっかり稼ぐ人たちでした。その中には、そのお金で何か社会貢献をしている人もいます。だから、お金持ちであることを一概に批判はできない。また、お金を持っている人たちが逆に持っていない豊かさも世の中にはたくさんある。それぞれの人たちがお互いに持っているもので支えあっていけないか。そんなアイデアがわきました。

肩書きでは働かない
そんな中、フィジーで留学事業をしている会社に転職されましたね。
大企業の中の歯車ではなく、小さな会社で力を試したいと思いました。転職先では、留学事業の日本側とフィジー側双方の責任者を務めました。
その会社もなかなか大変でした。日本とフィジーの社員同士の信頼関係がないまま、売り上げ目標が課され、その達成のために無理をしながら事業が動かされている状態でした。
そこを襲ったのが、2021年のコロナです。当時、フィジーへ300人ほどの日本人留学生が来ていたのですが、帰れなくなってしまった。何とか策を練りましたが、帰国させる術はなかった。自分は責任者なのに何もできていないなと悲観する日々が続きました。
しかし、現地フィジーの人たちが気づきを与えてくれたそうですね。
あるフィジー人にこう言われました。「あなたはコロナがなくても大変大変言っていたでしょ。もっと、物事の良い面を捉える努力をしなさい」と。
私は会社で「責任者」を務めていましたが、日々何とかやっていくのでいっぱいいっぱいだった。一方、現地のフィジー人たちは状況を肯定的に捉え、コロナ禍でも笑って楽しく生きていた。仕事に肩書きは関係ない。仲間と横並びになって一緒に考えることが大切なんだ。そう気づいていきました。
川上さんの、人と働く上での土台がつくられたように思います.。そして、2021年にはフィジーで独立し起業されます。
はい。途上国で社会課題に取り組みたいという思いを形にすべく立ち上げました。2026年で独立して5年となりますが、主に「人づくり」と「事業づくり」の2軸で展開をしています。
「人づくり」は、SIF Academyという日本人の学生向け短期プログラムが主軸です。日本の学生数名がフィジーにきて、現地の社会課題を学びます。そして、約10日間の滞在中、個性を活かした社会事業づくりに挑戦するのです。自分の好きなことをエネルギーにして、まわりの人や社会を幸せにできるような若者を育てたいと思っています。

参加する学生との関わり方で工夫していることはありますか?
答えを直接教えないことです。答えを求められたら、「あなたはどう考えるの?」と返します。コーチのような感覚で人の力を引き出す関わりを大切にしています。
「事業づくり」の方は、どのような活動なのですか?
SIF Academyで創り出されたビジネスアイデアを、まわりの地域に拡大する活動です。たとえば、ARIGATO EARTH PROJECTというものがあります。フィジー現地のゴミの放置問題に着目してSIF Academyの学生が考えた事業で、集めたペットボトルをお金と交換できる仕組みを作りました。結果的に地元の市役所、市民を巻き込んで3年間で7万2000本のペットボトル回収につながりました。現在はフィジー全国で現地の企業がで年間620万本の回収を目指すプロジェクトに発展しています。小さな成功から大きな船を出していくようなやりがいを感じています。
フィジーと日本のはざまで
川上さんご自身は、いま働いていて幸せですか?
はい、とても幸せです。小さくても時間がかかっても、自分が正しいと思うことを実行していく。それが、社会によい影響を生んでいると思います。もしいま自分の命が絶えたとしても幸せだったと言えるかもしれません。
ただ、周りに貢献できた生き方かというと、そうではないとも感じます。だから今後は、より大きな影響力でフィジーの課題を解決していきたい。他者に貢献していきたいです。
フィジーは「世界一幸せな国」とも言われます。そんなフィジーの風土が、川上さんの幸福感にも繋がっていますか?
確実に繋がっている一方、「フィジー人にはなれない」ことに葛藤も覚えています。フィジーに出会って9年ですが、私はあくまでも日本人です。フィジー人の幸せの感覚を完全に共有することはできません。その狭間で苦しさを覚えることもあります。
ただ最近、フィジー人と幸せを共有するヒントが見えてきました。
それは、「人との関係性づくり」です。いっしょに働くフィジー人は、一見、個人では責任をとらないことが多いです笑。ただ、問題を共有しあい、みんなで解決策をつくります。
ラグビーでいうと、ずっと誰かにパスがまわっているようなイメージです。
日本は、ひとりひとりがボールをもって別々に走り続けているような社会だと思います。それもひとつの文化ですが、「みんなでいっしょに考える」ことでつくられる幸せがあるのではないか。そんな仮説を立てています。

“Right things, Right way”
一筋縄ではいかない部分もありつつ、いまの仕事は川上さんの幸せに繋がっています。この先も働いていく上で、どんな人でありたいですか?
大切にしている言葉があります。「Right things, right way」です。日本語だと「正しいことを、やさしいやり方で」となるでしょう。
行動をするには、現実を正確に捉えて正しい方法を見出すことが必要です。一方、それを伝えるときには、正論だけを訴えても、周りの人は共感してくれないかもしれない。だから、相手に合わせた伝え方を考えるんです。冷静な分析眼と相手へのやさしさを、共にもつ人でありたいです。
最後に、川上さんが描く、これからの社会のあり方を教えてください!
私が目指す社会は、「百花繚乱な世界」です。様々な花が咲き乱れるように、私たちも自分のやりたいことに挑戦して、それで生きていける社会を目指しています。社会で活躍している人も、そうでない人も、何かしらの才能やWant(やりたいこと)があると思っています。それに挑戦できていない人がいたとしたら、阻害するものを取り除いていく必要があります。
ひとりひとりが社会で「これをやってみたい、これもいいなあ」と思え、実行にうつせる。そんな環境づくりのために働くことが、私自身の幸せに繋がっていると感じます。

編集後記
インタビューの最後、「もしかしたらむさしの地域でお隣さんだったかもしれない、そんな風に書いてください」と仰った川上さん。
フィジーで社会課題解決事業の運営をしていると聞くと、なんだか別世界の人のような気がします。しかしその裏には、学生時代の葛藤やフィジー固有の価値観への悩みなど、よい意味で人間くさい姿があると分かりました。
うまくいかないことや大変さも含めて仕事に幸せを見いだしつづける。時には相容れないものにあえて身を投じてみる。川上さんのそんな働く姿は、社会人2年目を迎えた私が目指したい姿かもしれないと思います。
そして、この記事を読んでくださった人が、川上さんのストーリーから何か気づきを得て、ある日むさしののどこかで本人と偶然出会う。そんな日が来たらいいなと思います。




