昨年の結成以来、親子向けオペラコンサートの開催等、精力的に活動している「吉祥寺オペラファンタジー」。メンバーもママ・パパで子育ての当事者である皆さんが、どのような思いで活動を展開されているのか、精力的な活動の「源泉」はどこにあるのか、代表の小松原 利枝さんにお話を伺いました。

小松原利枝(こまつばら りえ)さん プロフィール
吉祥寺オペラファンタジー代表。

2023年9月の旗揚げ公演以降、親子向けオペラコンサートを中心に精力的に活動。
昭和音楽大学声楽科卒業、洗足学園音楽大学大学院声楽専攻修了。オペラ「ポッペアの戴冠」ドゥルジッラ役にてオペラデビュー、「フィガロの結婚」スザンナ等多数のオペラに出演。日中友好青少年交流事業では中国の要人を前に御前演奏。2016年よりマレーシア国立芸術遺産大学でオペラ上演の指導、出演を行うなど今後アジアでの活躍が期待されている。ナミレコードよりファーストアルバム「One Hug for you」発売中。藤原歌劇団所属

「吉祥寺オペラファンタジー」の活動内容について

小松原さんの活動概要について教えてください。

「吉祥寺オペラファンタジー」というソプラノ歌手3名、ピアニスト3名が所属するプロの音楽団体として活動しています。2023年9月に旗揚げ公演を行ってから、結成1年足らずですが、子どもたちに音楽を届けること、本格的なオペラを親子で楽しんでもらうことを目的に、親子向けのオペラコンサートのホール公演を3回開催しました。

結成1年足らずでホール公演3回!とても精力的に活動されていますね。

メンバー全員に子どもがいることもあって、子どもの状況によっても活動が左右されるので、最初の2年ぐらいで形を作らないといけないと思って走っています。それよりも、今はメンバー全員がエネルギーに溢れているので(笑)活動が止まらない感じですね。
ホール公演の他にも、イベント出演など声をかけてもらえるものには参加しています。

普段のコンサートはどのように宣伝しているのですか?

メンバーが出会ったのが「親子ひろば」ということもあり、親子ひろばを開催している場所で1-2曲歌って、宣伝しています。5月のコンサートから武蔵野市に後援をいただきましたが、親子ひろばでの宣伝活動は今でもやっています。
今は、武蔵野市の後援をもらっているので、市内の様々な施設にチラシを置いていますが、親子ひろばなどで直接会った人が一番、来てくれる確率が高いように思いますし、私たちがどんな活動をしているのか、理解して来ていただけるので、満足度も高いように思います。

コミセン親子ひろば

今、6名で活動しているとお聞きしましたが、全員が親子ひろばで出会ったのでしょうか?

はい、今のメンバーとは親子ひろばと子育てひろばがきっかけでつながりました。

私自身、最初は音楽をやっていることを隠して、ひろばのリトミック教室など、子どもを音楽に触れさせる活動に参加していました。「オペラ歌手は夢を売る商売なんだから、どこに行くときも美しくありなさい」と若い頃から叩き込まれていたこともありまして(笑)、子育て中にお化粧もおしゃれもせずに参加しているところに、自分がオペラ歌手であることを言いたくない気持ちもありました。

でも、2年ぐらいすると「そろそろ歌いたいな」という気持ちが大きくなってきて。そんなとき「0123はらっぱ」で、ママ・パパの特技を披露する企画がありました。軽い気持ちで「2曲くらい歌わせてください」と言ってみたところ、音楽をやっていることを隠していたこともあって最初は驚かれましたが、アカペラで2-3曲歌うつもりが、ボランティアのピアニストさんを紹介してもらい、30分のミニコンサートをさせてもらいました。その様子を子供と通っているひろばの先生がご覧になったことがきっかけで、今のメンバーの歌手の一人と出会いました。そこから、既にママさんの音楽活動をしている今のもう一人のメンバーともつながり、どんどん輪が広がって、みんなで武蔵野公会堂でコンサートをやったことが、今のメンバーでの活動の始まりです。その時はまだ「吉祥寺オペラファンタジー」という名前もなく、ただ「ママさんたちが歌を歌う」というコンセプトのコンサートでしたが、その時に参加したメンバーそれぞれが活動に可能性を感じ、勢いそのままに「吉祥寺オペラファンタジー」を立ち上げるに至りました。    

活動してみて、武蔵野市にはたくさんの音楽家が眠っていることに気づきました。今、「吉祥寺オペラファンタジー」は6名の固定メンバーで活動していますが、新たな音楽家との出会いもあり、つながりが増えてきました。今後の展開に生かせないかと、夢が膨らみます。

また、タイミングもよかったと思っています。私自身がコロナ期間の真っ最中に出産を経験して、この活動を始めたタイミングがちょうど、コロナが明けた頃でした。親子で出かけやすいタイミングでしたので、コンサートも初回から満員になるなど、そういう偶然の積み重ねで今の活動に至っていると思っています。

「赤字を出さない」「無償のボランティアはしない」

今まさに精力的に活動されているところかと思いますが、今後の活動の予定など決まっていますか?

本当は半年に1回くらいのコンサートと思っていたのですが、いただくお話もあって、気が付けばたくさんの機会を頂いています。次回は9月23日に武蔵野公会堂での公演※1が決まっていて、12月8日※2にも武蔵野公会堂で自主公演のクリスマスコンサートを開催する予定です。そのほかにも、決まっている公演がいくつかあります。

※1 インタビュー時点。公演は終了しています。
※2 公演の詳細は記事末尾をご覧ください。

コンサートは無料でなさっているんですか?

有料です。チケット代をいただいてやっています。立ち上げ当初から、「赤字を出さない」「無償のボランティアはしない」ということを決めて活動しています。音楽はどうしても、ボランティアで頼まれることも多いのですが、それぞれプロとして活動してきたメンバーですから、子育てで活動を中断してもプロであることには変わりません。
その分、質も妥協しません。この2つはメンバー同士の決まりとして、活動しています。

「赤字を出さない」「ボランティアはしない」、それこそが持続的に活動を続けていく秘訣かもしれないですね。

ボランティアで演奏することももちろん否定はしませんし、演奏する側も楽しいからこそボランティアでできるのだと思います。私たちも楽しんで演奏していますが、演奏するための準備を入念に行います。プロになるために20年以上を費やしてきているメンバーですから、その技術を安売りはしたくないな、と思っています。

音楽で「ゆりかごから墓場まで」、ゆくゆくは音楽を通じた国際交流も

今後のことについてお聞きします。近い将来にどうなっていたい、またご自身のことも含めて、遠い将来はどうしたい、という展望はありますか?

まず、近い将来は、音楽の「ゆりかごから墓場まで」ではありませんが、音楽は色んな場面やライフステージにフィットすると思っているので、高齢者向けにも何か企画したいと思っています。高齢の方が歌うこと、口を使う、声を出すことが嚥下機能の向上に役立つなど、健康にもよいことなので、ぜひやりたいな、と思っています。これが近々の目標です。

もっと将来的な目標としては、文化庁のプログラムに参加できるようになりたいですね。文化庁が、全国の小中学校に芸術家を派遣して文化鑑賞会を実施する支援をしているのですが、私たちも芸術家として登録をして、学校に出向いて演奏をすることができるような団体に育てていけるといいな、と思っています。

同時に、これは私自身の夢ですが、海外との音楽を通じた交流事業をやりたい、と思っています。
 
以前、マレーシアの大学で3年ほど、オペラ実習やオペラの公演・指導を行っていたことがあり、そんな思いを強くしています。マレーシアはイスラム教の国ですが、キリスト教をバックグラウンドとするクラシックが国に根付いていないということもあり、日本でのクラシックの常識が通じない、と特に最初の1年は驚くことばかりでした。
 
宗教的な価値観の違いで指導が上手くいかないことがあるなど、苦労しましたが、同時に、日本に住んでいたら知らない価値観に出会って、私自身もすごく勉強になったので、日本の子どもたちが交流したらいいことがあるんじゃないかな、と思っています。実際に、日本の大学生をマレーシアに連れて行ったことがありますが、文化や環境に全く馴染めない学生がいる一方で、マレーシアにハマる学生もおり、反応は二極化していました(笑) 
 
そうやって、異文化に出会って、自分自身がどう感じるかを知ることも、いい経験だと思っています。音楽は、互いの言葉がわからなくても、同じ曲を歌える、国境を越えて交流できる良いツールだと思っているので、音楽を通じた国際交流は私の夢です。

文化庁「学校における文化芸術鑑賞・体験推進事業」

活動の源泉は「オペラって、誰のための芸術なんだろう?」、音楽と社会のつながりを形に

今までお話を伺ってきて、まさに、ご自身の音楽の技術を社会に還元する活動をなさっているな、と感じたのですが、活動の「源泉」になっているものは何だとお考えになりますか?

私が最初にオペラを勉強し始めたとき、楽しかったけれども、「これを一般の人が楽しむって難しいな」と感じました。オペラの作品が少々とっつきにくい、ということもありますし、観に来るお客さまもオペラに詳しい人が多く、目線が厳しい感じがあります。そういった観点で、一般のエンターテインメントとは全く違うな、と思っていました。なので、いくら自分がオペラを好きで人に勧めても、人には届かない、という課題感を持っていました。
 
オペラを高尚なエンターテインメントとして昇華させていくのか、もっと身近なものとして展開するのか、自分の中でも答えが出せない中で、20代・30代は自分の技術を磨き、表舞台に立つことに一生懸命取り組みました。
 
そんな20代・30代を経て、子どもが生まれた今、より社会の一員である意識が強くなったこともあり、自分が持っているものをどう社会に還元するか、どう使うかを考える方が面白いことができるんじゃないか、と当初の課題感に回帰した感じがあります。
 
私自身がごく普通の家庭で、日本の音楽を聴いて育ったこともあり、一般の人がオペラにハードルを感じる気持ちはよくわかります。「オペラって、誰のための芸術なんだろう?」という問いがずっとあって、「音楽」と「社会」のつながりに昔から関心があり、今の活動に至っていると思います。

活動やそれにつながる背景について、よくわかりました。ありがとうございました。
最後に、武蔵野市のおススメポイントを教えてください!

武蔵野市は街並みに緑が多くて、住みやすくてとても好きです。井之頭動物園には子どもを連れてよくいきます。あとは、ホールが多い!武蔵野市民文化会館、武蔵野公会堂、武蔵野スイングホールなど、近距離にたくさんあるのも、好きなポイントです。小学校のブラスバンドがとても強いと聞きますし、文化レベルが高い、ということなのかもしれないです。ブラスバンドの演奏も「歌心」=表現力が大事ですから、ブラスバンドをやる子どもたちに歌を教えることができたら、いいかもしれないですね(笑)

★★「吉祥寺オペラファンタジー」次回公演のご案内★★
0歳からのファミリーコンサート「ウィンター・ワンダー・クリスマス☆」

日時:2月8日(日)10:30開演(10:00開場)(公演は1時間を予定しております)
場所:武蔵野公会堂(東京都武蔵野市吉祥寺南町1-6-22
チケット:全席自由 大人2,000円 小人500円 0-1歳無料(座席が不要の場合に限ります)

詳しくはホームページへ

About the Author

森山葵

Writer

1991年東京都国立市生まれ、小平市育ちの生粋の「武蔵野っ子」。大学卒業後、一般企業に入社。現在はCSR担当として、企業として実施する寄付、社員ボランティアの企画・運営に携わる傍ら、「書く」/「話す」仕事で生計を立てるべく、画策中。地域活動は未経験ながら、自らが育った武蔵野・多摩地域に恩返ししたい、という思いからMMに参画。「武蔵野」のおすすめスポットは「JR国立駅前」。今年、三角屋根の駅舎が復活し、在りし日の景観が復活しました。文教地区として区画整理された街並みは武蔵野が誇る美景観だと思っています。

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About the Photographer

上澤進介

Co-Founder

武蔵野市関前在住、二児の父。1976年神奈川県川崎市生まれ。栃木県鹿沼市育ち。多摩美術大学を卒業後、建築設計事務所、広告制作会社を経てWeb制作会社を起業。子育てのために武蔵野市へ転居。会社も武蔵野市に移転して職住近接を実現。地域活動に関心をもち2017年2月から武蔵野市「地域をつなぐコーディネーター」の一期生としてコミュニティ活動に関わる方々と学びを深めている。 武蔵野市のおすすめスポットは三鷹の堀合遊歩道から中央公園へ続くグリーンパーク緑地です。子供たちと遊びながら中央公園へ向かうのが楽しいです。